雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

『Bring On The Lucie (Freda Peeple)』、あるいはキュアロンのレノンを訳してみた

8年ぶりにキュアロンの『トゥモロー・ワールド』(2006)を見直した。未見だったナギちゃんと一緒に見た。なんだかやたらと動物が出てくるねと言う。確かにそうだ。そしてラストシーンにかかるレノンの曲に「なんでここでこの曲なの?」と声をあげる。「キ…

ミーナとレ・ティグリ、『熊座の淡き星影』より

『熊座の淡き星影』だけど、メイン音楽はセザール・フランクの『前奏曲、コラールとフーガ』。これが執拗に演奏される。最初はこのシーン。 youtu.be 次に印象的なのは、イタリアのポップス。最初にかかるのが Le Tigri の『if you don’t want』。ビートルズ…

『熊座の淡き星影』、あるいはヴィスコンティの《ジャッロ》

土曜日、新宿の朝カルで『熊座の淡き星影』のことを話した。この映画はヴィスコンティのなかでも、とりわけぼくのお気に入りだ。なにしろ奥が深い。ハッとさせることがいくつもある。今回も発見があった。備忘のため、それについて記しておく。 1. 形容詞 va…

クエスティ『Arcana』(1972)短評

備忘のため、以下に『Arcana』についてツイートしたものをまとめておく。 * * * ジュリオ・クエスティ(Giulio Questi, 1924 – 2014)の最後の長編映画。ひさしぶりに映画を見ながら興奮した。個人的には近年見た作品のトップクラス。ルチア・ボゼーとテ…

DVD『by Giulio Questi』短評

昨晩観た『by GIULIO QUESTI』。思っていた以上におもしろい。YouTube で観た『Arcana』に感動していたのだけれど、この2枚組DVDには、今のぼくに響くものがある。 クエスティは「ある種の映画はその年齢にならないと撮れない」と言っていたけれど、この…

フェリーニのこと話しました

先日、お招きにあずかりフェリーニについて話しました。ウィキペディアのイタリア版を読んでみようというのが趣旨なのですが、今回はフェリーニということで、お声をかけていただいた次第。ビデオは無料で公開されてます。ぼくはほとんど用意もせずに四方さ…

『舞いあがれ』と、その「リドンダンツァ」をめぐって

ひさしぶりに朝ドラのことを書く。FBには上げていたんだけど、今回の『舞いあがれ!』はなかなか素敵だ。開始からぼちぼちメモをとっていたんだけど、気がつけばもう第6週で、その名も「スワン号の奇跡」。 いや奇跡なんて起きないのですよ。でも奇跡だなと…

ブラゼッティ『Peccato che sia una canaglia』短評

1954年の作品。日本語にすれば「悪い女で残念だ」ぐらいの意味だろうか。2001年のイタリア映画大回顧祭では『女泥棒とは残念』のタイトルで公開されているけれど、日本語のソフトが出ていないなんて残念。 監督のアレッサンドロ・ブラゼッティ(1900…

朝カル横浜「ナンニ・モレッティの世界」... 話してきました!

朝日カルチャーセンター横浜では、このところ「イタリア映画の今」と題してお話しさせていただいています。今回(朝カル横浜 2022/10/22)は「ナンニ・モレッティの世界」。幸いにも無事終了。おいでになっていただいた方、ありがとうございます。 ちょうど…

ブラゼッティ『Un'avventura di Salvatore Rosa』(1939)短評

RHV のDVDは、タイトルもだけれど内容も充実していて満足度が高い。また、IBS はぼくがよく利用するサイトだけど、ここも仕事が早くてうれしい。 Un' avventura di Salvator Rosa - DVD - Film di Alessandro Blasetti Avventura | IBS このタイトルについて…

ブラゼッティ『Nessuno torna indietro』(1943-45)短評

ブラゼッティ祭り。 ほとんど誰も見ていない幻の映画。RHVが発掘しDVDとして届けてくれた。これは感謝しかない。なにしろ泣けた。いやほんと。よくできている。あの時代に、こんな女性の自由と自立を歌いあげる物語を撮っていたなんて。 ラブストーリーだ…

トレッカーニの新機軸:ネコは雌から「ガッタ、ガット」、医者も女性から「メディカ、メディコ」...

www.ilpost.it トレッカーニのイタリア語辞典が新機軸を打ち出すそうです。これによると男性形の名詞や形容詞には、その女性形が併記されます。併記はアルファベット順で、例えば「友人」なら「amica, amico」、指揮者なら「direttore, direttrice」のように…

ブラゼッティ『Contessa di Parma 』短評

イタリア版DVD(RHV)。1937年4月公開。日本未公開。「Contessa di Parma」の意味は「パルマ公爵夫人」。 舞台はトリノ。イタリアが国際連盟から脱退し、経済制裁を課せられているころの話。そんな時代のファッション業界で、「パルマ侯爵夫人」と呼ばれる…

ブラゼッティ『La tavola dei poveri (貧者の食卓)』(1932)短評

#ブラゼッティ祭り イタリア版DVD(RHV)。イタリア語ブックレット(22頁)付き。イタリア語字幕あり。RHVのシリーズは良心的。古典をしっかり伝えようとしている。 さて、アレッサンドロ・ブラゼッティ(1900 -1987)の『貧者の食卓』は、『Terra madre…

デ・アンドレの『サンド・クリーク川』を訳してみた

ずっと気になっているファブリーツィオ・デアンドレ。なぜだか今朝、彼のこの曲が流れてきた。彼が歌っていたのではなく、別の誰かが歌っていた。気になって調べれば、デアンドレの『Fiume Sand Creek』だと知る。 「3度目を閉じたのにまだここにいる、おじ…

朝カル横浜「トルナトーレの世界」で話せたこと、話せなかったこと

yasujihp.wixsite.com 昨日この話をしてきました。ぼくが映画のセミナーをやるときは、少し深く掘り下げたい映画や作家がいるとき。今回はトルナトーレのドキュメンタリー『Ennio』(2021)のイタリア版BDが届いたこともあり、そのあたりを掘り進めたいと…

短評:デ・シーカ『Maddalena... zero in condotta』 (1940)

デ・シーカ祭り。監督第二作。とはいえ単独で監督したこという意味では第一作といえるかも。というのも、第一作の『Rose scarlatte (緋色の薔薇)』では、ジュゼッペ・アマート(Giuseppe Amato)が共同監督をしたと主張。デ・シーカに言わせると、自分で監…

短評:Le miserie del signor Travet (1945) di Mario Soldato

ニーノ・ロータ祭り。マリオ・モニチェッリのドキュメンタリーで紹介された作品。そのなかで監督のマリオ・ソルダーティが、この映画と音楽のニーノ・ロータについて、こんなふうに語っている。 『Le miserie del sigonr Travet (トラヴェット氏の苦悩)』…

短評:Il birichino di papà (1943)

ニーノ・ロータ祭り。アメリカ留学から帰ったロータが、最初に映画の音楽を書いたのがマタラッツォのデビュー作『Treno popolare(庶民列車)』(1933)。それから10年、ロータは音楽に打ち込み、最初はターラント、ついでバーリの音楽院で教師をしながら作…

ぼくらの《まつりごと》のために(2)

2014年にこんな投稿をしている。気持ちが前向きだったのだと思う。ただ、前向きな気持ちは、投票の意味を考え直すうちに生まれた。投票とは「誓い」」だという言葉に辿り着いた時に、ああそれならばと思ったのだ。その背後には「神を信じること credere in d…

戦争・ストーリー・そしてワイン

戦争はストーリーから始まる。戦争とはストーリーの戦いでもある。どこにいて、どの言葉で、どのストーリーを聞くか。それによって戦争の姿が変わる。 たとえばイラク戦争(2003-2011)。それは大量破壊兵器を隠し持っているというストーリーから始まった。…

イタリアの映画、映画、映画...

今年はイタリア映画のことを話しまくります。なにしろ、2月18日に日伊協会のオンラインセミナーで「パゾリーニ100周年」を話し、3月5日には新宿朝カルでヴィスコンティ(7)、おなじ3月に話すはずだったモリコーネの三回目は、例の「小人19」のおか…

ソッレンティーノの世界

今週の土曜日、朝日カルチャーセンター横浜でお話します。 日本での知名度はそんなにかいかもしれませんが、今のイタリア映画を代表する映画監督。先日のアカデミー賞には『ドライブ・マイカー』が受賞した国際長編映画賞に、彼の『Hand of God -神の手が触…

ブログからノートへ/ノートからブログへ

べつに考えがあったわけではない。Note とういものを、なんとなくつけ始めてみた。 みーくんは、なんで note なんか書いてるの?と言う。嫌いなんだそうだ。ぼくはそうでもない。フォントの大きさが決まっているので、書いたものが読みやすい。 とくに広告が…

またしてもロダーリ: "Chi comanda?" を訳してみた

どこかの誰かがやりたい放題をしているからだろうか、またしてもFBにジャンニ・ロダーリの文章が流れてきた。ロダーリは、かつてどこかの独裁者がやりたい放題をやらかした時代を生き抜いた人。もちろん、どんな独裁者も「やりたい放題」をやらかすためには…

「キエフの月」と「独裁者」、ジャンニ・ロダーリを訳してみた

今年になって初めてのブログになる。2022年の年頭は、ベッペ・フェノッリョの書評を書き、パゾリーニの生誕100年のセミナーをやり、それから最後のヴィスコンティと題して、ダンヌンツィオの『イノセント』の映画化の話をした。 そうこうしているうちに、プ…

キング・クリムゾン「Music is our friend」 東京国際フォーラムAホール2日目、11/28(日曜日)、短評

二日目。昨日買えなかったパーカーを買う。ホンジュラス製。サイズピッタリ。7500円は安くはないけど大満足。うえの娘も、インターミッションのときに自分用のTシャツを買いに走る。最初は買わなくてもよいとか言っていたんだけど、前半のプレイをみて震え…

キング・クリムゾン「Music is our friend」 東京国際フォーラムAホール初日、11/27(土曜日)、短評

グッズを買うために15時すぎに到着。すでに長蛇の列。カードを使えると書いてあったのに、カウンターには読み取り端末が2つしかなくて、長蛇の列。現金のほうは比較的スムーズ。欲しかったパーカーはサイズが売り切れ。 コンサートは定刻にはじまる。オー…

アルトゥロ・ウイの興隆、あるいはビッチはまだ発情中...

今日、2021年11月21日、神奈川で『アルトゥーロ・ウイの興隆』の舞台を見てきた。 このブレヒトの芝居を見たかったのは、ひとえにサム・ペキンパーの『戦争のはらわた』(1977)に、この芝居のセリフが引用されていることを知っていたからだ。それはこんなセ…

親父とお袋、それから介護と虐待の向こう側へ

ある作家とある評論家のツイッターでやりとりが目に入りました。「ケア」のなかに「虐待」を読み取った評論家に、作家が「虐待」とは書いていないと反論する構図のようでした。このおふたりは、冷静にやりとりをされ、互いに落とし所を探しておられた。ツイ…