雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

ノガ・エレズ『ヴァンダリスト』を訳してみた

THE VANDALIST [BLACK ICE VINYL] - NOGA EREZ [Analog]

 

 ノガ・エレズはずっと気になっていたシンガーソングライター。最初に知ったのはネトフリの『ハート・オブ・ストーン』(2023)の主題歌「Quiet」だ。なんとも特徴的な音を聴かせてくれるのでチェックしていた。

 ぼくが映画を観たのは2023年の8月29日。ところが同年の10月7日、ハマースのイスラエル領内への奇襲攻撃開始から「パレスチナイスラエル戦争」が始まると、イスラエルからの大々的な反撃が始まりガザ地区の破壊の惨状に心痛める日々が続くことになる。

 ジェノサイドがとりざたされるなかで、ぼくはずっと好きだったガル・ガドットの映画や、ノガ・エレズの音楽から距離をとるようになる。ふたりとも、あのイスラエルの人であり、どちらも兵役についていたことが知られている。そのイスラエル国防軍(IDF)による蛮行が取り沙汰されるなか、正直、大好きだなアーチストたちに複雑な感情を抱かざるを得なかったのだ。

 それでもノガ・エレズの曲をちゃんと聞いてみようと思ったのは、ヴェネツィア映画祭でのイスラエル映画ボイコットがきっかけだ。パオロ・ソッレンティーノが、ガザでの殺戮に抗議を表明するのはよしとしながらも、イスラエルの映画をボイコットするのは違うと訴えていたのだ。映画は映画として招待し、作品として評価すればよい。その国の政府がやることに抗議するのはよいけれど、それとその国の映画は違う。

 たしかにそうだ。その国がどんな蛮行を働いたからといって、その国の人がすべて悪いわけではなく、ましてやその国で生まれた作品とは関係がない。たとえばファシズム時代に作られた映画がすべてプロパガンダだというようなものだ。かつてはそんな風潮もあった。たとえば「白い電話」はプロパガンダであり、ヴィスコンティはそれに抵抗して『郵便配達は2度ベルを鳴らす』(1942)を撮ったのだという言説。そんなことがあるものか。ブラゼッティだって平和を訴える映画、たとえば『鉄の王冠』(1941)を撮ったし、デ・シーカだって戦争の最中に『子供たちは見ている』(1943)を撮っている。そして、ファシスト政府の肝煎りで撮られたロッセリーニの戦争三部作(『白い船』『ギリシャからの帰還』『十字架の男』)だって、よくよく見れば、ファシズムプロパガンダというよりはむしろ、限界はあるものの、宗教的な博愛の理念を追求する作品となっていたではないか。

 そんなことを考えているとき、ふと聞こえてきたのがノガ・エレズの『ヴァンダリスト』(2024)だった。それまで国際的なヒットを飛ばしてきたノガ・エレズは、海外のアーチストたちとのコラボを考え、できればパレスチナの人々とも音楽を作りたいと表明したことがあったらしい。ところがひとたび「戦争」が始まってしまうと、そんなことをすれば中東情勢のコンテキストでは明確な政治的メッセージととられてしまう。もはや、一緒にみんあで平和の歌を歌おうなどというナイーブなことはできなくなっていたわけだ。

 それでも、ひとりのアーティストが自由な創造活動を制限されるなかで、それでもなおかつ創造を続けるにはどうすればよいのか。ノガ・エレズはきっと、みずからが置かれた状況のなかで、それにもかかわらず表現すること、そして歌うことに挑戦してみせくれたのだ。

 ぼくは、彼女の曲を聴きながら、その独特のリズムと旋律のなかで、彼女がいったい何を歌っているか知りたいと思った。そして調べてみれば、そこにはじつに誠実で、知的で、戦略的で、なおかつ政治的なことばが散りばめられているではないか。

 なによりもタイトルがよい。ヴァンダリスト(Vandalist)とは「破壊者」のことだが、それはヴァンダル人(vandal)ではなく、ヴァンダリズム(vandalism)という破壊行為を連想させる。ぼくたちが、放浪生活から抜け出し、集住するなかに生み出した文明(civiltà)を、外から、あるいは内側から破壊する行為がヴァンダリズムであり、その一人ひとりがヴァンダリスト、つまり破壊者なのだが、それはいったい誰なのか。誰が自分はそうではないと言えるのか。実のところ、わたしたちはわたしたちが作り上げてきたものを、自分自身の手で壊しているのではないのだろうか。もしそうだとすれば、わたしたちはどうすればよいのか。

 ぼくは彼女の詩のなかに、そんな自分自身への真摯で厳しい問いかけを聞いたような気がする。

youtu.be

 以下に訳出してみる。

【イントロ:ノガ・エレス、ルッソ】
レディーズ&ジェントルメン
(ヴァンダリストはすごい言葉)
(ご紹介できて光栄です、それは)
(ザ・ヴァンダリスト)

Ladies, gentlemen
("Vandalist" is a tremendous word)
(Such as, it's my pleasure to present)
(The Vandalist)

 

【ヴァース1:ノガ・エレス】
片目を開けて眠るのよ 靴を履いて眠るのよ
レディーズ&ジェントルメン
あんたたちのせいでほんと狂って見えちゃうの
ジョーカーになる夢を見た
あたいの笑顔は傷跡なのよ

レディーズ&ジェントルメン
あんたたちのせいでほんと狂って見えちゃうの

I sleep with one eye open, my shoes always on
Ladies, gentlemen
You really got me looking mad
I dream to be the joker
My smile is a scar

Ladies, gentlemen
You really got me looking mad (Uh)

 

【ヴァース2:ノガ・エレス、ルッソ】
おっと、パックマンみたいに切り刻まれちゃった(何だって?)
まっててね、バットマンみたいに戻って来るから(バット)
マイクチェック、あたいがマッドマンのネタなのよね
レディーズ&ジェントルメン、おかげで狂って見えちゃうわ
おっと、あんたたちの記事に1行書き忘れちゃった
クリックベイトをクリックしてよ、あたい ネットに拡散されるから
ボットとサイコたちをひきつれて現れるから

レディーズ&ジェントルメン(つかまっちゃったわ)

Oops, you cut me up like a Pac-Man (What?)
Back up, I come back like a Batman (Bat)
Mic check, I'ma scoop for the madman
Ladies and gentlemen, you got me lookin' mad
Oops, I forgot a line in your article (I)
Click on the clickbait, I go viral (I)
Coming up with the bots and the psychos

Ladies and gentlemen (You got me)

 

【プレコーラス:ノガ・エレス】
あたいがここにるのはお金のため
そうよ、ともだちはみんな紛いもの
生活費が払われれば文句なし

あんたたちがヒットしたいのは誰か教えてくれりゃいいのよ
あたいのヒットリスト そんなに長くならないはずよ
この歌を歌える限りはね

あなたたちのこと 捻りをきかせて書いといた
わたしからはおしまい あんたたち戸締りしとくのよ

I'm only here for benefits
Yeah, all my friends are counterfeits
My bills are paid, I'm down for it

Just tell me who you want to hit
My hit list won't be getting long
As long as I can sing this song

I wrote you in just for the twist
I'm done, lock your door

 

【コーラス:ノガ・エレス】
(アーハ)ヴァンダリストみたいにやって来る
(アーハ)「うまく処理してくれなきゃこまる」と言うけれど
自分の履いてるナイキがいったいどこから来るか
知ったこっちゃないのが あんたたちよね(スウィッシュ)

(アーハ)ヴァンダリストみたいにやって来る
(アーハ)でも自分たちで処理しようとは思わない(アー)
あの死体のすべてがいったいどこに消えたかなんて
知ったこっちゃないのが あんたたちなのよね
カマセ、かませ、ぶちかませ(おー)

(Ah-ha) Coming like a vandalist
(Ah-ha) They say, "You better handle this" (Ah)
They don't want to know 
where all their Nike's are from (Swish)

(Ah-ha) Coming like a vandalist
(Ah-ha) But they don't want a hand in this (Ah)
They don't want to know where all the bodies have gone
Busta *1, busta, bust (Ooh)

 

【ヴァース3:ノガ・エレス】
おっと、あたいったらメンタルがクリティカルじゃん(何だって?)
ポンポンと、メントスみたいに薬を飲んでる
大当たり、あたいの首には賞金がかかってる
だからあたい、眠るときは片目を開けて
心はずっと砕けたまま
履いてる靴がずっと歩き続けるの

Oops, I'm in a critical mental (What?)
Pop-pop, I pop pills like a Mento (Ment')
Jackpot, there's a price on my head now
So I sleep with one eye open
My heart is always broken
My shoes are always walking

 

【プレコーラス:ノガ・エレス】

【コーラス:ノガ・エレス】

【セリフ:ノガ・エレス】
(ヴァンダリストはすごい言葉)
(ご紹介できて光栄です、それは)
(ザ・ヴァンダリスト)

 

【ブリッジ:ノガ・エレス】
おっと、勝った思ってるでしょ
でもあたいはまだ、あんたたちに歌わせてるのよ
おっと、勝った思ってるでしょ
でもあたいはまだ、あんたたちに歌わせてるわ(ザ・ヴァンダリスト)

Oops, you think you won
But I still made you sing along, ah
Oops, you think you won
But I still made you sing along (The vandalist)

 

【アウトロ】
ポンポン(あたいのギャングをみんなつれお家におかえり)
ポンポン(あたいはおしまい)
ポンポン(ヴァンダリストみたいにやって来る)
ポンポン(どうやらセラピストが必要ね)
ポンポン(そしたらうまく処理できるかも)

 

Pop-pop (Go home with my whole gang)
Pop-pop (I'm done)
Pop-pop (Coming like a vandalist)
Pop-pop (I think I need a therapist)
Pop-pop (So I can better handle this)

 

THE VANDALIST [Explicit]

THE VANDALIST [Explicit]

  • Atlantic Records/Neon Gold
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Vandalist

Vandalist

Vandalist

Vandalist

  • provided courtesy of iTunes

 

 

 

 

*1: ChatGPT によれば、busta は to bust(壊す)から来た表現で、bust a move(キレのある動きをする)、bust a rhyme(ラップをかます)、bust a shot(発砲する)などの「bust a ~」が縮約されて名詞化したもの。1980–90年代のヒップホップ/ブラック・スラングで。荒っぽく、勢いで何かを「かます奴」とか「トラブルメーカー/無茶をする存在」というニュアンスが定着したという。