雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

カメリーニ『Crimen』(1960)短評

 イタリア版DVD。字幕なし。23-176。マンガノ祭り。Filmarks にタイトルがなかったのでこちらに短評。これは楽しかった。ガズマン、ソルディ、マンフレーディのそれぞれに、ドリアン・グレイ、マンガノ、フランカ・ヴァレーリが寄り添うダブルトリオ。死体が映らないジャッロとしても秀逸、イタリア式喜劇としても秀逸、ようするに最高の娯楽作。

 なにしろ監督はマーリオ・カメリーニ(1895 – 1981)。サイレントの頃から映画を撮り、戦前は恋愛悲劇か史劇しかなかったイタリア映画に軽喜劇の新風を吹かせ、マンゾーニの『 I promessi sposi (婚約者)』(1941)を映画化しているし、戦後にはプーシキン原作の『La figlia del capitano (大尉の娘)』(1947)やホメロス原作の『ユリシーズ』(1954)などの文芸巨編を手がけている。

 マンガノは『ユリシーズ』には妻のペネーロペと魔女キルケーの二役で登場。『大尉の娘』のほうも、のちに『テンペスト』(1957)をルネ・クレマン監督で再映画化されたとき、まさに大尉の娘マーシャの役を演じているのだが、カメリーニとの最初の出会いは彼女がまだ20歳のころに主演した『紅薔薇は山に散る』(Il brigante Musolino, 1950)だ。

 そんな名匠が手掛けるのだから間違いがあろうはずがない。カメリーニは作家とか言うよりも、娯楽映画作りの職人。原案を提供し脚本に協力したロドルフォ・ソーネゴ(Rodlfo Sonego, 1921 – 2000)はアルベルト・ソルディの作品で知られるイタリア式喜劇の立役者のひとり。

 題名の『Crimen』はラテン語で「告訴」「犯罪」の意味。ここからイタリア語の「crimine 」(重大な犯罪)の語源。その犯罪の舞台はモンテカルロ。ケチで知られる裕福な老婆が殺されるのだけど、カメラの前に姿を現すことはない。ギャンブルでは負け知らずだが、背が低く、自分の周りにも背の低い人間しか寄せ付けなかったという変わり者で、だから飼い犬もダックスフント。なるほどイタリア語では 「bassotto」(背の低い犬) だ。

 そのダックスフントがイタリアで行方不明になり、発見してモンテカルロに連れてくる夫婦がマンフレーディとヴァレーリ。同じ列車に乗り合わせた貴族を演じるのがアルベルト・ソルディで、若くて美しい妻(ドリアン・グレイ)のご機嫌をとるために、その犬を買い取ると申し出る。

 そんなソルディが食堂車で知り合うのがローマで美容院を開業しようと考えているガズマンとマンガノの夫婦。ガズマンはある男からルーレットでの必勝法を教わり、モンテカルロのカジノで一山当てようと考えていたのだが、必勝法を妻のマンガノに説明しているところに、興味をもったソルディが割り込んできて、最高の必勝法はね、勝負しないことさと言いながら、手にしたダックスフントをあやすのだ。

 こうしてモンテカルロに到着したソルディと二組のカップル。マンフレーディと妻はダックスフントを返しにゆくが、そこで死体を発見して逃げ出すのだが、放っては置けないと警察に匿名で電話をかければ、警察が現場にかけつけ、事件の捜査が始まる。

 ローマでメッサジェーロ紙の記者をしているマンフレーディは、大抵の場合、殺人の第一発見者が犯人と疑われるのだと、犬を捨てて、身を隠そうとするのだが、それが裏目にでてしまう。

 カジノでゲーム始めたガズマンとマンガノのも散々な目に遭う。マンガノははしたない真似をするガズマンに愛想をつかす。賭けを始めたガズマンの前にあのソルディが登場すると、賭けごとはやめたといっていたのに派手にかけまくって勝利を重ねてゆく。おもわずガズマン、その勝利に便乗しようとソルディと組んで勝負をするのだが、最終的には有り金をすべてを失うはめに。

 帰り道、すっからかんのふたり。ソルディはホテルに、ガズマンは怪しい車の持ち主が、大事そうに抱えるトランクが気になる。持ち主が離れたすきに、それをホテルに持ち帰ってしまう。翌日、妻のマンガノがカバンをあけて卒倒する。あの小人で金持ちの老婆の遺体が入っていたのだ。

 老婆を殺したのは誰なのか。3組のイタリア人カップルは果たして無罪を証明できるのか。みごとな脚本と演出でぼくたちは物語に引き込まれ、ソルディ、ガズマン、マンフレーディが、みずからの欠点を誇張して笑いとばす姿は、まさにイタリア式喜劇の絶妙さ。そこに若いドリアン・グレイの派手さと、フランカ・ヴァレーリの軽妙な演技、そしてシルヴァーナ・マンガノの俗っぽくも気品のある存在感が華を添える。

 いはやは見事なイタリア式喜劇。フェリーニヴィスコンティ、そしてアントニオーニのような国際的な作家主義は、カメリーニが撮る絶妙な娯楽映画があって初めて成り立つに違いない。そんなふうに思わせてくれた、名作でした。

 こいつはぜひとも日本語の字幕版がほしい。ほんと、絶対面白いから。

 

 

 

Ulysses [Blu-ray]