雲の中の散歩のように

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ジーナ・ロッロブリージダ:パンと恋と夢を生きたアーティスト

 今年のはじめ、ロッロブリージダの訃報が届く。去年の暮れに『殺しを呼ぶ卵』(1967)の「最長版」を見たばかり。そのときは、まだ生きているのかとおぼろげに思っていた。訃報が届いたとき、イタリアの記事に目を通した。上にあげたのは、ローマで今月9日から8月8日まで開催されるロッロブリジーダ展の案内だが、そこにも書いてあるように、彼女は女優だけではなかった。写真家であり画家であり彫刻家であり、そして歌手でもあったという。

 その本名はルイージャ・ロッロブリージダ(Luigia Lollobrigida)。日本では「ロロブリジーダ」と表記されるが、アクセントの位置は後ろから3番目。この姓はラツィオ州に多いそうだ。生年月日は1927年。ピーター・フォークジャネット・リーと同じ。生まれ故郷のスビアコ(Subiaco)はローマ県の東にある歴史ある街。彼女の父親はそこで家具製造業を営んでいたというけれど、1944年の米軍の空爆で村の3分の2が瓦礫となり、一家は財産を失ってしまう。

 一家は一時的にウンブリア州のトーディに避難。17歳のジーナは、歌が上手いからという父親の勧めもあって、世界一小さな劇場と呼ばれる「テアトロ・デッラ・コンコルディア」の舞台にも立ったという。その後、ジーナはローマに出てくる。やりたかった彫刻やデッサンを学ぶために美術学校に入るが生活は楽ではない。肖像画を描いて売ったり、フォトロマンツォのモデルをしたりしたという。そのなかで1947年、ミス・ローマで2位となり、ミス・イタリアに出場して3位となって注目される。

 こうして映画にも端役で出演。歌がうまいということでオペラ作品の映画化に呼ばれ、たとえばドニゼッティの『愛の妙薬』(1947)ではロッロとシルヴァーナ・マンガノの姿を見ることができる。

 

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ロッロブリージダの歌声は本格的ではないとしてもライトなソプラノ。ポップソングなども歌っていて、たしかになかなかの才能ぶりなのだ。

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映画で最初に主演したのは、おそらくルイージ・ザンパの『Campane a martello』(1949)。この映画については、記事にしたのでこちらをどうぞ。

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ザンパとはつづけて『白い國境線』(1950)という印象的な作品をとっている。こちらを見てほしい。

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ザンパとの2作品はどちらも、初々しいロッロブリージダが見られる。

 

残念ながら日本語のメディアは見当たらないのだけど、イタリア語版はYTで確認することができる。

Campane a Martello 1949 - YouTube

Cuori senza frontiere 1950 (Gina Lollobrigida) - Film Drammatico - Tv Retrò - completo, 720p. - YouTube

 

このころのロッロブリージダは演技をしているというよりは、自分自身の経験をそのままに、『Campane a Martello』のアゴティーナや、『白い国境線』のドナータを生きているのだ。その意味でリアリズムだけど、彼女のセクシー女優としての表現力を開花させ、国際的にも有名にしたのは、フランス映画の『花咲ける騎士道』(1952年、クリスチャン・ジャック監督)や『夜ごとの美女』(1952年、ルネ・クレール)なのだろう。

 

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おそらくこの2作でハリウッドの目にもとまったのだろう。かの有名なハワード・ヒューズがロッロブリージダを囲い込み独占契約を結んだというのだけど、ロッロにしてみれば自由を奪われたように感じたらしい。契約にはアメリカで映画を撮るときはヒューズに独占権があったという。だから彼女はヨーロッパに逃げ出して、そこでアメリカの俳優たちと映画を撮る。キャロル・リードの『空中ブランコ』(1956)なんて、たぶんそういうノリで撮られたのだろう。

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しかしである。イタリア映画だって彼女の肉体的な魅力を引き出すことに成功している。フランスでの成功と同じ1952年に、アレッサンドロ・ブラゼッティ監督のオムニバス映画『懐かしの日々』において、ロッロブリージダがヴィットリオ・デ・シーカと共演したエピソード「フリュネの裁判」*1のなかで、その見事な肉体に罪はないと訴え、「精神薄弱者(i minorati psichici)」に対して「肉体的な豊満 (maggiorata fisica)」という法律用語(?)をでっちあげるのだ。こうしてロッロブリージダは、イタリアではグラマーやセクシーというだけではなく「マッジョラータ・フィズカ」としても知られることになる。

そのシーンがこれ。

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さらにデ・シーカとのコンビで彼女の圧倒的な肉体的なフレッシュ感がスクリーンで大成功したのが、ルイージ・コメンチーニの『パンと恋と夢』(1953)。裸足で野山を走り回る娘ブリガディエーレの姿は、セクシーというよりは新鮮であり、若々しさの顕現とでも言えばよいのだろうか。

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ロッロブリージダが表現者としてすばらしいのは、ベルサリエーラという娘を演じた同じ年に、マーリオ・ソルダーティの『田舎女』では、地方に住む美しくも憂いを帯びた美女ジェンマとなっていることだ。

La Provinciale - Film Completo Full Movie Pelicula Completa by Film&Clips - YouTube

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では以下に、今回のセミナーのために見たその他の映画をまとめておく。

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セミナーでは映画の成功、写真、彫刻、それからマリリンのことなども話したので、そのあたりは、また時間のあるときに。

(続く...)

 



 

*1:この裁判については、ジャン=レオン・ジェローム による絵がある。

ja.wikipedia.org

またフリュネについては、こちらを参照のこと。

ja.wikipedia.org