雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

読書

ヌメラシー、低くあること、応答可能性、そして世界に参加すること

4/25 TWで評判がよかったので、近所の書店で注文。届いてすぐにページをめくる。おもしろい。指で数字を操ながら数的理解に到達するに、どうやら人は痛みを伴う跳躍をしなければならないようだ。 森田さんは記している。「生来の認知能力に介入し、それを意…

宗教となった医療、あるいは、恐怖から逃れるために希望を捨てること

あらら、帯に問題になっている歴史学者さんの名前が... でも、内容は面白かったです。 体長100メートルのゴジラと、1メートルのジャガーという比喩はなんだかピンときました。アジアにやってきたのはもちろんジャガーのほうです。それでも街中で野放しにな…

アガンベンの『私たちはどこにいるのか? —— 政治としてのエピデミック』をめぐって

ジョルジョ・アガンベン 『私たちはどこにいるのか? —政治としてのエピデミック』 高桑和巳訳(青土社、2021年) 4月5日に購入。 こんなにすらすらと読めるアガンベンがあっただろうか。しかも、読み始めたら目から鱗がボロボロと落ちてゆく。「私たちはど…

Quaquaraquà って誰のことだ:シャーシャの『真昼のふくろう』をめぐって

レオナルド・シャーシャの『真昼のふくろう』(竹山博英訳)を借りてきて読んだ。 実は、この小説を原作にした同名の映画を見て(日本未公開でテレビ放映されたときの邦題は「マフィア」)、おもわず原作の "Il giorno della civetta" にざっと目を通したの…

パトスとエートスのあわいに:テッド・チャン『息吹』

通算3日ほどで読了。おもしろかった。以下、読書メモ。 「商人と錬金術の門」 あっと言う間に引き込まれる。タイムトラベルもの。 テッド・チャンの新しいところは、運命が、たとえ「錬金術の門」によってその因果の法則が破られるかもしれないと思われると…

亡き人を傍にして読む『一人称単数』

新しい村上春樹の短編集を買った。 「石のまくらに」 電車の中で最初の短編を読んだ。やっぱり「僕」は簡単に出会った女の子と寝ちゃうんだ。でも、その曖昧さのあわいに、なにか深みが記されてゆく。そして鋭さと、何か不吉なものがある。 たとえば、こんな…

堀江敏幸「熊の敷石」

村上春樹の文体に似ていると娘がいう。冒頭の「熊の絨毯」のくだりに、昔読んだ、いしいしんじ、の『四とそれ以上の国』を思い出した。いしいしんじの場合は「俺」、そして堀江敏幸ならば「私」が、あっという間に動き出す文体となる。 ところが次の瞬間、堀…

加藤典洋『完本・太宰と井伏』、短評

年末から年頭にかけて、加藤典洋の『太宰と井伏、ふたつの戦後』を読んだ。読み進めながら、これが『9条入門』と平仄をあわせるものだと気がついた瞬間、鳥肌が立った。9条には「ねじれ」があった。そこには平和主義の崇高な理念が輝く一方、敗戦の結果と…

パゾリーニ「俗世の詩、1962年6月21日」を訳してみた

のんびりした日曜日、風呂から上がってさあ寝ようというとき、FBの投稿でふと目に飛び込んできたパゾリーニの詩。冒頭の「1日中修道士のように働いて、夜は野良猫のように彷徨って愛をもとめる」という部分にハッとしてしまう。 ここにはパゾリーニその人…

ダンテのソネット "Tanto gentile e tanto onesta pare" 訳してみた

Twitterにこんな記事が流れて来た。 「私はベア(トリーチェ)のために何だったてやった。」「まずは『新生』を書いた。」「それから『神曲』」「しまいには、天国にいれってやったんだ」「それで、彼女は何してくれたって?」「他人に挨拶しただけだ!」 ht…

日本国憲法9条とイタリア共和国憲法11条

ずっと疑問だったことがひとつ解消した。加藤典洋の『9条入門』を読んでいて、イタリアの憲法の「戦争放棄」という部分に言及した箇所を読んで、ぼくは、ああそういうことだったのかと膝をうった。「同じ敗戦国であるドイツとイタリアの憲法にはあった《相…

タヴィアーニ祭り

ここのところタヴィアーニ兄弟の映画をずっと見てきました。そろそろ、まとめにかからないといけないのだけれど、そのまえに、メモを整理しておこうと思います。 1)まずはデビュー作ね。これは最初、フィルマークスにタイトルがなかったんだけど、なぜかイ…

憲法記念日にカフカ

憲法記念日の今日、朝からカフカの『審判』に出てくる寓話、「法の前にて」について考えた。 ポイントは3つ。 1つは、その門が開いてるということ。空いている門に入れないのはそこに門番がいて「今は入れない」という。田舎から来た男はそれを信じて入れ…

ジョヴァノッティのアモーレ、ダンテのアモーレ

www.youtube.com ジョヴァノッティを知ったのはたぶんこの曲だったと思う。NHKのテレビイタリア語が始まったのは1990年だけど、この曲はその4年後に発表されている。たしか、ちょうどそのころ出演しはじめたダニオ・ポニッシさんが番組のなかで紹介して…

ジェルソミーナとローザ、あるいは『道』の反復をめぐって

授業でやってる『道』の冒頭のシーンの続き。 ここでのダイアローグなんだけど、ポイントはやはりローザの存在。 近所の女性がジェルソミーナに近づいて来て言う。 - Te ne vai, Gelsomina? (行くのかい、ジェルソミーナ?) そこでジェルソミーナは「Parto…

「似る」こと:「親和力」と「深くて暗い川」

この日曜日、どうしてだか「親和力」のことを考えることになったのは、この記事が始まりだった。 cakes.mu ここで東浩紀はこんなことを言っている。 人間はそもそも、言葉だけではなく、服装や振る舞いや声の高さ低さや、じつに多様なチャンネルからの情報を…

戦後70年:ふたつの「まぼろし」のあいだで

今朝、後藤健二さん殺害の報が流れた。 昨晩ぼくは奇しくも吉本隆明の「軍国青年の50年」(『背景の記憶』所収)を読んでいた。奇しくも、というのは後藤さんのニュースが、吉本の文章に響き合うように感じたからだ。どんなふうに響き合うのか、それを少し…

Robert Frost "The Road Not Taken” 訳してみた

米国の詩人 Robert Frost の有名な詩だそうだが、ぼくは今日、例によってFacebookで初めて教えてもらった。読んでいると、なんどかとても、今の自分、そして今の時代と響き合うところがあるではないか。 そう、昨日の選挙のことを考えているのだ。秋が終わっ…

ぼくらの《まつりごと》のために

政治には関心がなかった。投票に行くのはどうも気が進まなかった。どうせ何も変わらないとも思っていた。でも、なにより嫌だったのは、市民たるもの投票に行くべきだという、そんな空気ではなかったかと思う。 投票所に行けば、投票用紙を受け取り、候補者の…

John C Jay の言う《Be authentic》とは?

あのユニクロで知られるファーストリテイリングは、自社のグローバルクリエイティブ特活として、世界的なクリエイターのジョン・C・ジェイ(John C Jay)氏を迎えるという記事を読んだ。 ぼくの目を引いたのが、ジェイ氏が若いデザイナーのために提言したと…

原初的逸脱…

Twitterで寺山修司のこんな言葉に目にする。 人間の条件は、つねに本質よりもさきに「生」そのものがあるのであって「はじめにことばありき」ではなく「はじめに声ありき」だったのである。 「はじめにことばありき」とは聖書の言葉だが、そこに寺山は「本質…

蜷川幸雄『わたしを離さないで』

『わたしを離さないで』 PV - YouTube この連休に、蜷川幸雄の舞台『わたしを離さないで』を観てきた。 原作はカズオ・イシグロの同名小説。原作は読んでいた。映画化された作品も観た。それでも舞台は新鮮だった。ひさしぶりの舞台ということもあったのかも…

フクイチ・科学技術・「あわい」への思考

フェイスブックにこんな投稿をしたところ、友人たちいくつかのコメントが寄せられました。返事を書こうと思ったのですが、長くなったのでこのブログに記してみることにします。 // 投稿 by 押場 靖志. ぼくは、フクイチ(福島第一発電所)のことが報道されな…

「日本的なもの」の誘惑

長谷川三千子は、その『日本語の哲学へ』において、ぼくたちの話す日本語によって、日本語のなかで、固有の哲学的思考を展開する可能性を開こうとした。それはひとつの冒険だったと思う。しかしその冒険がかくも危険なものへの接近でもあったことを、その「…

殉教の子どもたちと動物の尊厳

先日、『イスタンブールの赤 Rosso Istanbul』という小説(あるいは随筆?)を発表したフェルザン・オズペテク。トルコ生まれにしてイタリア映画を代表する監督である彼が、とても興味深いフレーズをツイートをしていたので、ここで紹介してみたい。 Ci sare…

中味のない人間

まずは東京新聞のこんな記事から。 自民党の高市早苗政調会長は十八日、原発の再稼働について「東京電力福島第一原発事故で死者が出ている状況ではない」として、原発再稼働を主張した自らの発言について「誤解されたなら、しゃべり方が下手だったのかもしれ…

5本の指みたいな共同体

なあ、おれたちはある意味、パーフェクトな組み合わせだったんだ、5本の指みたいに。(170頁) かつて多崎つくるには居場所があった。5本の指みたいな「パーフェクトな組み合わせ」と呼ばれるものがそれだ。 始まりは公立高校一年生の夏だったという。つくる…

チェチェンから来た兄弟

兄はタメルラン・ツァルナエフ26歳、弟はジョハル・ツァルナエフ容疑者19歳。 4月15日、このふたり兄弟が仕掛けた爆弾がボストンマラソンのゴール付近で爆発。19日、兄は銃撃戦のすえ死亡、弟もアメリカの威信をかけた大捕り物のすえ拘束された。ニ…

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

村上春樹の新作、昨日の夜11時ごろから読み始めた。 この人の本は読み始めるとやめられないが、今回はとくにそうだ。村上好みの謎解き・ミステリーの話型を採用しながら、そのシンプルな物語がぼくをとらえてはなさない。文字を追う目が真っ赤になって悲鳴…

決めつけるのは危ない

少し前に朝の番組「とくダネ」の木曜日コメンテーターをしている陸上の為末選手が、(細かい文脈は忘れてしまったが)中国との国境を巡る問題について、こんな言葉を口にしていた。 「決めつけるのは危ないですよね、グラデーションでゆかないと」。 なんだ…