雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

ブラゼッティ『Un'avventura di Salvatore Rosa』(1939)短評

 

RHV のDVDは、タイトルもだけれど内容も充実していて満足度が高い。また、IBS はぼくがよく利用するサイトだけど、ここも仕事が早くてうれしい。

Un' avventura di Salvator Rosa - DVD - Film di Alessandro Blasetti Avventura | IBS

 

このタイトルについて、少し前にFBに投稿したものをこちらにも貼り付けときますね。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 イタリア版DVD(RHV)にて、アレッサンドロ・ブラゼッティの未公開作『Un'aventura di Salvator Rosa(サルヴァトーレ・ローザの冒険)』(1939)を見る。これはおもしろい。見事な娯楽作。今でも十分に楽しめる。

 17世紀のナポリを舞台にした冒険活劇。イタリア版の怪傑ゾロといえばわかりやすい。ただしこちらは「狐のゾロ Zorro 」じゃなくて「蟻のフォルミカ il Formica」。

 どうしてアリなのか。たぶん「アリの俊敏性と先見性」 あたりからきたのだろうね。黒いマスクに頭から漁師の網を被って現れ、みごとな剣さばきと機智に富んだ策略でスペイン兵たちを出し抜くと、圧政に苦しむ庶民を助けて消えてゆく。そこは、ちょうどマザニエッロの反乱と短い共和国の時代が終わり、スペインの副王の圧政のもとにあるナポリなのだ。

 この神出鬼没の謎の騎士。仮面を取ると画家・音楽家・詩人のサルヴァトーレ・ローザ。バロック時代の実在の画家がモデル。演じるのはジーノ・チェルヴィ。このひとの飄々とした演技がよいのよね。その軽やかさをリアルにすると、あの『雲の中の散歩』(1942)のセールスマンとなるわけよね。

 それにしても、ニーナ・モレッリがすばらしい。演じる公爵の姫は、わがまま放題なのだけど、純粋で、可愛らしくて、どうしても憎めない。ときにハッとするほど美しい目をするのだけれど、決してエロチックではない。そしてあの大人への夜を過ごした後は、パッと表情がかわって大人の女になっちゃうわけだけど、そんな演技いったい他の誰にできようか。

 対照的なのは農夫を演じたパオロ・ストッパ。若いのは若いのだけど、相変わらずストッパ。悪い意味ではない。コミカルだけど、役に溶け込む名演技。こういう脇役が娯楽映画を面白くする。 

 それから余談だけど、ぼくは初めてあの「呪われたカップル」の演技を見ることができた。サルヴァトーレ/フォルミカに恋する農民の女を演じたルイーサ・フェリーダとオスヴァルド・ヴァレンティ。このスターのカップルは、1943年9月8日の内戦の時代に、ファシストたちの誘いをうけてローマを離れ、サロ共和国ヴェネツィア(第二のチネチッタになるはずだった街)に移動するのだけど、最後はファシストのスターだと断罪され、パルチザンに処刑されてしまうのだ。

 この話はマルコ・トゥッリオ・ジョルダーナが『Sanguepazzo (狂った血、邦題は「狂った血の女」)』(2008)で描いている。オズヴァルドを演じたのがルーカ・ツィンガレッリで、フェリーダはモニカ・ベルッチ。イタリア映画史の影の部分を描いた名作だけど未公開。それでも『狂った血の女』というおどろおどろしいタイトルと扇情的なカバーでDVDスルーになっているのはベルッチのおかげ。

 そんなオズヴァルドとフェリーダが見事な演技を見せるこの作品。今回手にしたDVDには、ブラゼッティのインタビューが音声だけのものと映像付きのものが二本も入っていて、ブックレットも豪華、さらにDVD-ROM で資料ファイルを読める。画質もまずまず。イタリア語字幕を選択できる。いい時代になったよな。