雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

イタリアのある高校教師による夏休みの宿題

8月もすでに半ば。みなさんいかがお過ごしですか?

さて、例によってFBの投稿におもしろいイタリアの記事がありました。どうやら、ある夏休みの宿題が話題になっているようなのです。

www.huffingtonpost.it

この記事によれば、フェルモのドン・ボスコ高校のチェーザレ・カターという教師が、とてもユニークな夏休みの宿題を出したというのです。この高校は人間諸科学高校 liceo delle scienze umane というのですが、人間諸科学というのは人文科学と言い換えればわかりやすいかもしれません。具体的には言語学,人類学,精神医学,精神分析,心理学, 社会学をはじめ,脳神経生理学や動物行動学などのことで、ようするに人間の諸活動の科学的探求をめざす学問の総称というわけです。

そういえば、ここのところ日本の大学では文学部への風当たりが強くて、国立大学にそんなものはいらんというような乱暴なことが言われたり、それに対する反発があったりするわけですが、考えてみれば、ぼくたち人間にとって、最大の謎はぼくたち自身ですよね。だとすれば、人文科学、あるいは人間諸科学というのは、その謎に挑む知的な冒険ということになるのではないでしょうか。

ちまたには、知的な冒険なんて儲かるのかね、というような人がおおぜいいらっしゃるのかもしれませんが、もしかするとそんな方にとっても、高校時代の夏休みにこんな宿題を出されたら、おもわずニヤリとしてしまうのではないでしょうか。

ともかく、そのユニークな宿題(15の課題)を以下に訳出してみることにします。

ではご笑覧。

課題1

朝、何度かは、海岸をたったひとりで歩きにゆきなさい。太陽の光が自分の身に反射する様を見て、自分が人生でいちばん愛していることを思い浮かべながら、幸せを感じること。

課題2

今学期に一緒に学んだ新しい言葉をすべて使ってみること。多くのことを言えるようになれば、多くのことを考えられるから。そして、多くのことを考えられれば、より多くの自由を得ることになるのです。

課題3

できるだけ本を読みなさい。義務だから読むのではありません。本を読むのは、夏には冒険がしたくなり、夢を見たくなるからであり、また、本を読んでいると空を飛ぶツバメのように感じられるからです。本を読みなさい。それがあなたたちが持つ反抗のなかでも最良の形なのですから(読書のアドバイスなら、わたしがしてあげられます)。

課題4

否定的になったり、空虚になるような物事や、状況や、人々はすべて避けること。求めるべきは、刺激をあたえてくれる状況であり、あなたたたちを豊かにし、理解し、ありのままの姿で評価してくれる友達なのです。

課題5

悲しくなったり、混乱することがあっても、心配することなありません。なぜなら夏が、あらゆる素晴らしものごとがそうであるように、魂を掻き立ててくれるはずですから。日記を書いて、心の状態を語ってみてください(もしもよければ、9月になったら一緒にそれを読んでみましょう)。

課題6

踊ること。恥ずかしがらないで。家のそばのダンスホールでも、自分の部屋でもかまいません。夏とはダンスのようなもの。踊らないのは愚か者です。

課題7

少なくとも一度は、日の出を見に行くこと。しずかに深呼吸すること。目を閉じて感謝しなさい。

課題8

たくさんスポーツをすること。

課題9

あなたを魅了する人に出会ったら、できるかぎりの正直さと誠意をこめて、その人にそのことを告げなさい。彼、あるいは彼女に理解されなくてもかまいません。もし告白しないなら、彼、あるいは彼女は運命の人ではなかったわけです。もしうまくゆけば、2015年の夏は金色の空となり、ふたりはその空を見上げながら歩くことになるのです(もしうまくゆかなければ、課題8に戻りなさい)。

課題10

いっしょに学んだ授業のノートを見直すこと。各々の作家、各々の概念について自分自身に問いかけてみなさい。そしてその問いを、じぶんたちが実際に経験したことに当てはめてみなさい。

課題11

太陽にように陽気でいること。海のように不屈でいること。

課題12

汚い言葉を口にしないこと。つねに礼儀正しく節度を保つこと。

課題13

感動的なセリフのある映画(それもできるかぎり英語のセリフのもの)を観て、言葉の能力を高め、夢見る力を伸ばしなさい。映画はエンドクレジットで終わらせてはなりません。夏を過ごしながら、そこにその映画をなんども見直すようにするのです。

課題14

まばゆい光のなかで、あるいは暑い夜に、あなたたちの人生がどうあるべきで、どうありうるのかを夢見なさい。この夏に、決して諦めない力を求め、なんとしてもあの夢を追いかけられるようになるのです。

課題15

悪さはしないこと。

 

どうでしょうか?

ちなみにぼくは課題13がお気に入りです。「映画をエンドクレジットで終わらせないこと」なんて素敵な課題じゃありませんか。そうですよね。映画というのは、映画館を出て、日常世界に戻ったら終わりじゃないんです。日常にあってなお、見続けられるような映画が名作であり、そういう映画の見方が映画を愛する者の見方なのです。少なくともぼくはそう思っています。

この先生は、そのあたりよくわかってらっしゃる。すごいなあと思いましたね。

ところで、同じ課題13は、映画をみて英語の力を伸ばそうみたいなことも言っていますが、ここはちょっと注意が必要かもしれません。なにせイタリアで公開される外国映画のほとんどは吹き替えなのです。オリジナル言語を字幕で観ることは、シネフィル向けの名画座のようなところでないと、なかなか見ることができないという事情があるのです。この点は、ぼくたち日本人はめぐまれていますね。それでもまあ近頃では、DVDでオリジナル言語に字幕という選択ができるようになりましたら、少しは状況が改善されたようではあります。ともかくも、この先生は、そんな英語のオリジナル版を見てみなさいと言っているわけですね。生の外国語にふれることはとても貴重な経験です。映画のよさは、その貴重な経験を手軽に楽しみながらできるところにありますよね。

イタリア語なんてマイナーな言語やっているぼくなんかは、なにも英語版にかぎることはないのになと思ってしまいますが、そこはあちらの事情がある。英語のオリジナル音声で字幕付きの作品が溢れている日本とは違うわけですから、いたしかたないのかもしれませんね。

 

そんなマイナー言語たるイタリア語を勉強しているみなさんの参考のため、以下に原文をあげておきますね。

 

1. Al mattino, qualche volta, andate a camminare sulla riva del mare in totale solitudine: guardate come vi si riflette il sole e, pensando alle cose che più amate nella vita, sentitevi felici.

2. Cercate di usare tutti i nuovi termini imparati insieme quest'anno: più cose potete dire, più cose potete pensare; e più cose potete pensare, più siete liberi

3. Leggete, quanto più potete. Ma non perché dovete. Leggete perché l'estate vi ispira avventure e sogni, e leggendo vi sentite simili a rondini in volo. Leggete perché è la migliore forma di rivolta che avete (per consigli di lettura, chiedere a me).

4. Evitate tutte le cose, le situazioni e le persone che vi rendono negativi o vuoti: cercate situazioni stimolanti e la compagnia di amici che vi arricchiscono, vi comprendono e vi apprezzano per quello che siete.

5. Se vi sentite tristi o spaventati, non vi preoccupate: l'estate, come tutte le cose meravigliose, mette in subbuglio l'anima. Provate a scrivere un diario per raccontare il vostro stato (a settembre, se vi va, ne leggeremo insieme)

6. Ballate. Senza vergogna. In pista sotto cassa, o in camera vostra. L'estate è una danza, ed è sciocco non farne parte.

7. Almeno una volta, andate a vedere l'alba. Restate in silenzio e respirate. Chiudete gli occhi, grati.

8. Fate molto sport.

9. Se trovate una persona che vi incanta, diteglielo con tutte la sincerità e la grazia di cui siete capaci. Non importa se lui/lei capirà o meno. Se non lo farà, lui/lei non era il vostro destino; altrimenti, l'estate 2015 sarà la volta dorata sotto cui camminare insieme (se questa va male, tornate al punto 8).

10. Riguardate gli appunti delle nostre lezioni: per ogni autore e ogni concetto fatevi domande e rapportatele a quello che vi succede.

11. Siate allegri come il sole, indomabili come il mare.

12. Non dite parolacce, e siate sempre educatissimi e gentili.

13. Guardate film dai dialoghi struggenti (possibilmente in lingua inglese) per migliorare la vostra competenza linguistica e la vostra capacità di sognare. Non lasciate che il film finisca con i titoli di coda. Rivivetelo mentre vivete la vostra estate.

14.Nella luce sfavillante o nelle notti calde, sognate come dovrà e potrà essere la vostra vita: nell'estate cercate la forza per non arrendervi mai, e fate di tutto per perseguire quel sogno.

15. Fate i bravi.