雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

『進撃の巨人』を観たよ


「進撃の巨人」予告 - YouTube

注目の「進撃の巨人」を観た。

以下、感想をメモったのだけど、ネタバレも含むと思うので、閲覧注意。

冒頭、エレンたちが壁の向こうの世界への憧れを語りあうシーン。これはまさに、原作者である諌山創のスタート地点。だからこそ、そこのところをどう映像化するかが鍵になるのだけど、ちょっと微妙かな。

ながらく平和の続いた壁のなかの世界と、ある種の閉塞感を出発点にしようというわけだけど、そこはよくわかる。その閉塞感が何世代も繰り返されてきたことも、後にエレンたちとソウダ(ピエール瀧)の会話で浮き彫りになる。それもよい。

よくないのは、まず水原希子のボデイライン。痩せすぎ。ここには健康美が欲しいのところなのに、それがない。笑顔もぎこちない。屈託のない表情がほしいところなのに、すでに影がある。エレンが不発弾のミサイルと戯れるシーンもそうだ。若者が危険な香りのするものにひかれるというのはわかるけど、ちょっとあざとい。けれども最悪なのは、エレンたちが壁の向こう側に行ってみようと、その直前に張り巡らされた鉄条網をくぐるシーン。3人とも、あんなロングセーターみたいなのをヒラヒラさせていたら、とてもじゃないけど鉄条網は抜けられない。ここで一気に興ざめ。

けれども映画はまだ始まったばかり。ここはガマンして続きを見る。

さあ壁の向こうに行こうというとき、エレンたちは警備の兵士に捕まってしまう。抵抗するエレンたちが、ちと強すぎるし、兵士が弱すぎやしないかと思ったのだが、そこはまだよい。なにせ、ソウダがやってくるまで繋ぎであり、兵士たちの指揮官であるソウダが、エレンたちのことを知っていて、兵士たちをとりなし、自分にもそんな時代があったという流れ。原作とは違うけど、流れはそのものは悪くない。まさにそのとき壁の向こうに超大型巨人を登場させるための布石なのだから、うまくまとめたと言えるだろう。

しかし、である。そろそろ登場してくれなきゃこまるところでの超大型巨人の登場は、あまりにも映像に凝りすぎるあまり、どうも理屈に合わないところが多すぎる気がする。ちょうど、鉄条網にひらひらの衣装がひっかからないようなもので、どうも物理的に無理なことが多すぎるのだ。

爆音がして、エレンたちが壁を見上げれば、そこに巨人がヌウッと顔を出すという演出は、たしかに迫力を出すには最適かもしれない。でも、そんなところにいたら、すぐ近くで巨人が(おそらくは足で)壁を破壊するのだよ。あんなに簡単に逃げられるのだろうか。いや、逃げられるというならそれでよいのだけど、逃げる描写と壁の穴の描写、そして超大型巨人のスケール感が、うまく映像から読み取れないのだ。

だから、超大型巨人のあけた壁の穴は、なぜか唐突に開いているように感じてしまう。そこから巨大なゾンビのような(普通サイズの)巨人たちが侵入してくることになるんは、まあ、原作通りなんだけど、その原作通りの展開が、ここまではどうもうまく映像になっていないような気がするのだ。

それでも、ここから樋口監督の本領発揮。普通サイズの巨人たちが壁の内側の街へと入り込んでくる描写はじつにリアル。それは着ぐるみの巨人に、リアルな人間の顔をデフォルメして乗っけているからではなくて、原作者の諌山創のアドヴァイス通りに、無表情で人間をつまんでバクリと食べるという設定をうまく映像化しているからだ。このシーンが映像化されているところだけでも、この映画は見る価値があるかもしれない。

でもなんだか惜しい。迫力はある。特撮も悪くない。けれども、理屈が通らない描写が物語への感情移入を妨げているのだ。映画ってのは、細かい描写の積み重ねでリアリティを持たせるもの。ところがぼくは、冒頭の迫力ある特撮に、うまくサイズ感と道理の通ったカットの組み合わせを盛り込めなかったように感じてしまったのだ。それに続くシーンは、じゅうぶんにトラウマ映画になれるものだったことを思うと、実に惜しい…

というわけで、あとはキャストについての雑感をつらつらと。

 

http://www.cinra.net/uploads/img/news/2014/20141120-shingekinokyojin_v.jpg

まずは、エレンの三浦春馬

ヘタレぶりはマルだけど、どうしても演技が過剰気味なのが鼻に付くかな。

 

http://www.cinra.net/uploads/img/news/2014/20141120-shingekinokyojin02_v.jpg

つぎに原作にはないシキシマを演じた 長谷川博己

園子温の「地獄でなぜ悪い」「ラブアンドピース」で注目の人だけど、その臭い芝居が妙にはまっていた。シキシマという登場人物は、明らかに若いエレンのヘタレぶりの対極にある大人の男。

だから、ミカサ(おそらくはその処女)を奪ってしまったという解釈なんだろうな。この色恋沙汰は、原作よりもずっとグロのだけど、はたしてこの独自の解釈、吉とでるか凶とでるか。後半のお楽しみというところかな。

 

http://www.cinra.net/uploads/img/news/2014/20141120-shingekinokyojin03_v.jpg

さて、注目のミカサを演じた 水原希子

巨人と出会う前のミカサはペケ。ぜんぜん素直さがない。処女っぽくない。けれども、巨人(そしてシキシマ)に蹂躙されたあとの陰のあるクールな演技には好印象。というか、水原希子ってクールなモデル顔はうまいけど、笑顔には特有の癖があって、ついつい地が出ちゃうのよね。『ノルウェーの森』でも、そんなところが気になったっけ。

 

http://www.cinra.net/uploads/img/news/2014/20141120-shingekinokyojin04_v.jpg


アルミン役の本郷奏多

どこか病的な感じのする演技なんだけど(本人はかなりの潔癖性らしいから、そこは地をうまく生かしてるんだろうな)、初めて見たのは『GANTZ』だったっけ。

原作のアルミンは、もうすこし純粋なところがあるのだけど、だんだん知性によって狂気を飲み込んで行くような設定だと思ったけど、まあ映画だから、最初から癖のある演技で正解かもしれないな。後半を見るまでまだわからないけど。

 

http://www.cinra.net/uploads/img/news/2014/20141120-shingekinokyojin05_v.jpg

ジャン役の三浦貴大は、エレンとやりあう役。

原作にもあるキャラクターだけど、ぼくの記憶にはあまり残っていない。

まあそんなもんか。

http://www.cinra.net/uploads/img/news/2014/20141120-shingekinokyojin06_v.jpg

サシャ役の桜庭ななみ

ずばりはまっていたな。かわいい顔してイモ食べる表情がこんなにうまくできる娘、ほかにはなかなかいないと思う。

 

http://www.cinra.net/uploads/img/news/2014/20141120-shingekinokyojin07_v.jpg

サンナギというのは原作にない大男の役だけど、演じた松尾諭には期待できるかな。

家族を養うために志願したという設定は、なるほど今問題になっている「経済徴兵」というやつを念頭においているわけだよな。

 

http://www.cinra.net/uploads/img/news/2014/20141120-shingekinokyojin09_v.jpg

ちょっと注目したいのはヒアナという役の設定。

演じたのは水崎綾女というグラビアアイドル(テレ東の「キューティーハニーTHE LIVE」なんかに出てるから女優なのかも)なんだけど、この人の存在が劇場版『進撃の巨人』を読み解く鍵のひとつだという感じがする。

このヒアナという登場人物には、娘がいるのだけれど、その養育費のためにやむなく志願したという設定。同時に、あらゆる美女が悪女になり得るように、このヒアナも悪運をもたらす女として、エレンを誘惑する。最初は、子供の声が聞こえるといってエレンを誘い出して、あの赤子の巨人のもとに連れ込むわけ。その辺の描写は、おそらく脚本の町山(智浩)好みなんだろうな、じつにエロティックなアレゴリーに満ちているのよね。で、当然のように、「子持ちはお嫌い」なんてセリフでエレンを誘惑することになるのだけど、その豊満なお尻を覗き見していた巨人に、ひょいとつまみあげられて食べられてしまうというのは、まったく大人のエロティックギャグなんだよな。

 

http://www.cinra.net/uploads/img/news/2014/20141120-shingekinokyojin10_v.jpg

さて、こういうエロスを持ちむことが、果たしてどういう効果を生むのか、まだまだ後編をみないとよくわからないのだけど、その意図はよくわかる気がする。

だから、新たな登場人物のリル ( 武田梨奈)も、その延長線上に出てきた人物なわけだ。彼女は、恋人と一緒になるために志願した女性という設定なんだけど、映画版の世界では、男と女が自由に結婚することは許されていないということになっている。このへん、LGBTの問題を、アナクロな自由恋愛禁止というものにでもひっかけようとしたのかな。でもま、このリルというのがすさまじい。怖い怖いといいながら、いざ恋人を巨人に食われるや豹変。恨みを晴さでおくべきか、とばかり、大事な弾薬を盗賊から盗みかえす(!)と、そのまま憎っくき巨人たちに突っ込んで行くわけ。あいつらは、少々の爆弾では死なないのだけれど、愛する人を食われて、そんなことはすっかりわからない狂女になってしまうわけだ。

 

http://www.cinra.net/uploads/img/news/2014/20141120-shingekinokyojin12_v.jpg

そんな狂気のエロスを『進撃』の世界に持ち込んだからだろう。ハンジを演じた石原さとみが、そこそこ違和感なくおさまっている。

このハシジって、もともとは女のような男のような女という、わけのわからない設定なんだけど、石原さとみが演じると圧倒的に女になってしまう。けれども同時にコミカルな処女っぽさが立ち上がるところがミソ。

さて、この石原=ハシジが後半にどんな活躍を見せるか、乞うご期待というところ。

 

http://www.cinra.net/uploads/img/news/2014/20141120-shingekinokyojin11_v.jpg

最後に、原作にはなくて、重要なのにまだ得体の知れないところのある登場人物をふたり。

まずはソウダ。演じるのはピエール瀧。エレンとミカサの幼いころを知るソウダの存在は、原作のいくつかのキャラが重ねられたものだということはわかるんだけど、ちょっと謎なところが多い。さてピエール瀧は、後半どんな活躍をしてくれるのか。

 

http://www.cinra.net/uploads/img/news/2014/20141120-shingekinokyojin13_v.jpg

それから、 國村隼が演じるクバルという司令官(?)。

この人物も「ソウダ」と同じで、いくつかのキャラが重なっているのだけど、國村さんの存在感でなんとかしようとしているのはわかる。でもさ、ひとつ大きな問題があるのよね。ナチスっぽいその制服があまりにも似合わなさすぎる。きっと仕立てが悪いのだろうな。なんだか、おっさんのコスプレみたいでリアリティがないのが難点。

 

ところで、園子温の『TOKYO TRIBE』でみごとなアクションと清楚な女のエロスを演じて見せた清野菜名が出演しているはずなんだけど、どこにいたのかな?

ぼく、ファンなんですけど…

http://sukimagazine.com/wp-content/uploads/2015/02/219328b9aaef8d4344c63db86e4ee08b.jpg

 

 

 

進撃の巨人(1)

進撃の巨人(1)

 

 

 

TOKYO TRIBE/トーキョー・トライブ [DVD]

TOKYO TRIBE/トーキョー・トライブ [DVD]