雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

『Bring On The Lucie (Freda Peeple)』、あるいはキュアロンのレノンを訳してみた

 8年ぶりにキュアロンの『トゥモロー・ワールド』(2006)を見直した。未見だったナギちゃんと一緒に見た。なんだかやたらと動物が出てくるねと言う。確かにそうだ。そしてラストシーンにかかるレノンの曲に「なんでここでこの曲なの?」と声をあげる。「キュアロン好みなんじゃない」とぼく。

 そうは言ったものの、キュアロンが好きとかいうよりも、レノンの歌詞が気になってきた。そこで以下に訳出しておこう。あれやこれやの雑感は Filmarks に書いたので、そちらをご笑覧。

filmarks.com

 さて、このレノンの曲で歌われる「あなた(You)」なんだけど、まず最初に思い浮かぶのは「神」なんだね。映画のなかでもラストの収容所の蜂起シーンでは、様々な旗がかかげられていたし、様々な神の名前が呼ばれていた。そこにあの「奇跡の子」がやって来るわけだ。そう考えると、なるほど、映画はこの歌のイメージをみごとになぞっているではないか。

 ところがレノンの曲では、その「神」=「あなた(you)」が、やがて「666」と呼ばるようになる。僕がのこの数字のことを最初に知ったのは映画『オーメン』(1976)だけど、ウィキペディアにあたってほしい。それは「獣の数字」と呼ばれる。「賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字は六百六十六である」(ヨハネ黙示録13:18)。すなわち「666」とは悪魔的な人のこと。第1節で「神」かと思われたものが、第2節では悪魔的な存在に変わっている。

 なにしろレノンの曲はタイトルが『Bring on the Lucie (Freda Peeple)』。このルーシー Lucie はフランス語の女性の名前で、イタリア語の Lucia なんかと同じで、語源はラテン語の Lux (光)。それが歌詞の前半だとすれば、後半のルーシー(Lucie )は明らかに、堕天使のルシファー(Lucifero)を意味している。

 堕天使ルーシーは、殺しまくって血の海に沈むことになる。ルーシーに従ってはならない。そこから逃れには愛しかない。愛の力でゆさぶりをかけ、本当の光(ルーシー)に向い、そして祈ろうではないか。

 そんなジョンのメッセージが、キュアロンのラストシーンから立ち上がると、ディストピアに場違いな明るさで、こんなふうに歌うのだ。

どんな旗を振ろうとかまわない
どんな名前なのかしりたくもない
どこから来ようと、どこへ行こうとかまわない
わかってるのは、あなたが来てくれたってこと
ぼくらが なんでも決められるのは あなたのおかげ
でもひとつだけお願いがある
なにをすべきか思案するとき
やってもらわなきゃだめなことなんだ

今すぐピープルを自由にして
今すぐ、今すぐ、今すぐに

ぼくらは両手を宙に上げたままのところを見つかった
あきらめないで どこもかしこもパラノイア
怖くなったら愛で揺さぶりをかけてやればよい
だからみんなで、祈るように叫ぼうぜ

今すぐ、今すぐ、今すぐそうしてやって
今すぐ、今すぐ、今すぐに

どんなルールでプレイしてもかまわない
そっちのゲームをする気はないからね
自分はクールですべて承知のつもりかい
そして名前は666
だからたがいにマスかきあいながら
こんな思いを抱えてるわけだ
もうお終いだ そう思い知るべき
でもきっとサインが読めないだけなんだな

今すぐピープルを自由にして
今すぐ、今すぐ、今すぐに

あんたが殺しに手を染めてるところを見つけたぞ
まだこれから薬を飲み込まなきゃだめなんだよね
ちょうど丘を滑り落ちてゆきながら
それも自分が殺した人々の血の上を

今すぐ殺しをやめて
今すぐ殺しをやめて

今すぐ、今すぐ、今すぐに
今すぐ、今すぐ、今すぐに
今すぐ、今すぐ、今すぐに

英語の歌詞はこちら:

One, two, three, four...
We don't care what flag you're waving
We don't even wanna know your name
We don't care where you're from or where you're going
All we know is that you came
You're making all our decisions
We have just one request of you
That while you're thinking things over
It's something you just better do

Free the people now
Do it, do it, do it, do it, do it, do it now

Well, we were caught with our hands in the air
Don't despair paranoia is everywhere
We can shake it with love when we're scared
So let's shout it aloud like a prayer

Do it, do it, do it, do it, do it, do it now
Do it, do it, do it, do it, do it now
 We don't care what rules you're playing
We don't even want to play your game
You think you're cool and know what you are doing
And 666 is your name
So while you're jerking off each other
You bear this thought in mind *1
Your time is come*2 - you better know it
But maybe you just can't read the sign

Free the people now
Do it, do it, do it, do it, do it, do it now

Well you were caught with your hands in the kill
And you still got to swallow your pill
As you slip and you slide down the hill
On the blood of the people you killed

Stop the killing now
Stop the killing now

Do it, do it, do it, do it, do it, do it now
Do it, do it, do it, do it, now
Do it, do it, do it, do it now
Do it, do it, do it, do it, do it, do it...

 

www.youtube.com

 

 

Bring On the Lucie

Bring On the Lucie

  • provided courtesy of iTunes
Bring On the Lucie (Freda Peeple)

Bring On the Lucie (Freda Peeple)

*1:bear という動詞は「重荷を背負う」とか「試練に耐える」ってこと。ここでは「この考え」(this thought)が目的語になってるから、それは「重荷」とか「試練」に相当する「考え」ってことになる。具体的には次の文にある「your time is come」(お前はもうお終いだ = 死ぬ時が来た)ということ。

*2: "Time is come" は「死ぬ時が来た」の意味で使われることが多いみたい。一方で "time has come." だと「なにかをすべき時が来た」って感じなんだろうね。イタリア語をやってると「来る」「行く」のような動詞が複合時制になるときは [have + come ] よりも [be + come]のほうが馴染みがある。