雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

エンニオ・モリコーネ、あるいは「映画のための音楽」

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土曜日、カルチャーセンターでモリコーネと映画音楽のことを話してきた。マエストロは2020年の7月6日に逝去されたので、もうすぐ一周忌。そんなタイミングでのセミナーだった。

ところでぼくは、音楽については、はっきりいってアマチュア。大好きだからアマトーレなのだけど、楽譜は読めないに等しいし、専門的な知識にも乏しい。それでも、映画のことを語ってくると、音楽のことが気になってくる。知らないなりに、音楽のことも知りたくなってくる。

例えばヴィスコンティの映画なんて、あちこちで話させてもらっているけれど、話のなかでどうしてもオペラのことに触れなければならなくなる。触れなくても語れるのだけれど、語れば語るほど避けていることを自覚してしまうから、最後には知らないオペラのことも調べざるを得ない。

おなじことがモリコーネにも起こる。とくに、セルジョ・レオーネジュゼッペ・トルナトーレの映画なんて音楽を抜きには語れないし、音楽を抜きにしてふたりの映画は成立しない。モリコーネへのインタビューや、レオーネの評伝、それからトルナトーレとモリコーネについての書かれた本なんかを読むと、それはもう疑いない。というわけで、土曜日のモリコーネ話のタイトルは「Musica per il Cinema」。

むかし頼まれてトルナトーレとモリコーネのことを話したことがあったので、そのときのことを思い出しながら話を組み立ててゆく。今回は彼の生い立ちから、レオーネやそのほかの名監督たちとの仕事の様子や、なによりもモリコーネ音楽の特徴を話してみたいと思ったのだ。

話してみたいというのは、話す内容がわかっているときもあるけれど、むしろ何かありそうだ、自分でちゃんと調べてみたい、調べられそうだという意味。だって、せっかくセミナーを準備するのだから、自分でドキドキする内容にしなければ楽しくないし、自分が楽しくなければ、きてくれた人だって楽しくない。

とはいえ、モリコーネと名監督たちのことを話そうというのは、ちょっと欲張りすぎ。なにしろこのマエストロ、400本以上の映画音楽を書いていらっしゃる。そこで何人かのイタリア人監督(トルナトーレ,レオーネ、パゾリーニベルトルッチ、アルジェント、ペトリ)に絞り込み、モリコーネ音楽の特徴のようなものをつかめないかなと思ったのだけど、それでも欲張りすぎだった。

結局、話せたのは、トルナトーレに少し触れ、レオーネの「ドル三部作(Trilogia del dollaro)」、あるいはクリント・イーストウッドがいつも「無名の男」なので「無名の男三部作(Trilogia dell'uomo senza nome)」とも呼ばれるものの話をしたら、時間切れになりそうになり、リクエストがあったので、最後に少しだけパゾリーニの『小さな鳥と大きな鳥』の話ができたのはよかった。

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けれどベルトルッチやアルジェント、ペトリやポンテコルヴォについては、触れることができなかったし、ほんとうならローランド・ジョフィの『ミッション』から「ガブリエルのオーボエ」を引用し、その映画的/音楽的な効果を示しながら終わろうと思ったのだけど、とてもとても。

それでも、今回なんとか話そうと思ったのは、「映画のための音楽」と「音楽のための音楽」というふたつの方向性のこと。モリコーネは「映画のための音楽」のことを「応用音楽 musica applicata 」と呼び、「音楽のための音楽」のことを「絶対音楽 musica assoluta 」と呼ぶ。前者には映画的な拘束があるが、後者は自由に表現できる。しかし、自由に表現できる後者があるからそこ、前者に新しい息吹を吹き込める。そして、このふたつはやがて「融合 contaminazione 」してゆく。

「融合 contaminazione 」の話は、じつはヴィスコンティの文学・音楽・映画の間にもあり、パゾリーニの文学・詩・映画、あるいは方言とイタリア語の間にも起こる。ジャンルの違う芸術が、それぞれに影響を与えあいながら融合してゆくというのは、実にスリリング。今回発見したものではエリオ・ペトリの『怪奇な恋の物語』(1968)なんて、さまざまな芸術の「融合」のなかでできた作品であり、モリコーネがそこで重要なピースとなっていると思うのだけど、まあ、そのあたりの話はもう少しあたためて、次回に譲ることにしよう。

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というわけど、次はモリコーネの第2弾。きちんと触れられなかった映画音楽デビュー作『Il federale』(1961)のことも触れたいし、パゾリーニモリコーネの名シーンとかも見つけ出してご紹介したい。それからペトリもいるし、ベルトルッチも... イタリアから離れてよければ、ほかにもたくさんあるんだけど、ここは禁欲、なんとかイタリアに留まりながらにしなければ際限なくなっちゃうからね。

次回のモリコーネは、おそらく10月の最後の土曜日になる予定。今回話し残した素材を少し整理しなおして、なにか面白い発見があればよいなと思っています。

ではまた。