サンレモ 2019 の準優勝曲を訳してみた。最近のポップスはほとんど知らないからウルティモ(Ultimo)って最初は曲名だと思ったのだけど芸名なんだね。本名はニッコロー・モリコーニ、1996年のローマ生まれというから、おいおい、ほとんどうちの娘たちと同年代ではないですか。
このウルティモくんですが、どうやらローマのサンタチェチリア音楽院で最初はピアノを、それから作曲を学んだというから、日本で言えば芸大で音楽を学んだサラブレットという感じかな。
曲名の I tuoi particolari は、ちょっと日本語に訳しづらい。昔一緒に暮らしていた彼女が話すときの表情というか仕草の「細部」(particolare)ということなのだろうな。一応「きみのしぐさ」と訳しておいたけど、感じとしては、とても解像度の高い彼女のイメージの特徴的な部分というような感じだろうか。
もうひとつは《BU》という間投詞。ウルティモは「彼女が叫ぶ "BU" という声」と歌っているのだけど、 どうかんがえても「ブーイング」の "BU" ではない。だって朝に彼を起こすときの「叫び」だから、たぶん子どもを驚かせるときに使う "BU" なんだろうなと想像して訳してみた。日本語でいわば「ワッ」って感じかな。そうやって朝起されるなんて、彼女がいない者にはきっとうらやましいのだろうけど、そのときのウルティモくんは、まあ、めぐまれた若者にありがちな不機嫌さを隠さなかったと、反省しているわけだ。けっこうかわいいところがある。
しかしながら、今年のサンレモでは準優勝に終わった彼は、その結果に少々不満だったようだ。テレビ投票ではダントツだったのに、審査員の票がマムッドの "Soldi" に流れたこともある。マムッドの視聴者票は 16% でウルティモくんは50%近かった。それのにどうして自分がという思いがあったみたいだ。サンレモの記者会見では「あのマムッドは(優勝できて)よかったよね(Sono felice per il ragazzo Mahmood)」と不機嫌なところをみせたり*1、会場の記者たちに対して「あんたたちジャーナリストはこの音楽祭で自分たちの偉さをひけらかしたいんだろう。それで他人をこきおろすんだ。"Perchè voi giornalisti avete questa settimana per sentirvi importanti. E rompete il cazzo"」なんて物言いをしたり、少々、やんちゃなところも見せてくれた。*2
それでも、記者のひとりに、移民に対して厳しい政策をすすめているレーガ(同盟)の副首相サルヴィーニから「マムッドよりも、ウルティモのほうがよかった」なんてツイートされてましたよねなんて言われると、この問題含みのツイートには、ウルティモくんも少々おとなしく、「自分の書いた歌はもう自分のものじゃない。サルヴィーニに気に入られようとも、それが歯科医であろうと、肉体労働であろうと、なにも変わらない」と答えている。ともかく、じぶんにとっての本当の勝利は、音楽祭での優勝じゃなくて、ライブ会場で観客を沸かせることだというのは、ちょっと優等生的発言かもしれないな。すなおに悔しいと言えればよかったのかもしれないけれど、でもこういうトンがったところがあるのは、悪くはないのかもしれない。
ともかく、そんなウルティモくんのことを昔から好きだというイタリア人の同僚の言葉もあって、すこし歌の内容が気になってきたというわけ。ビデオクリップに続いて、これまたざっと訳してみました。ご笑覧。
しばらくまえから聞かなくなった
きみが朝に「ブゥ」と脅かす声
ぼくは不機嫌に起こされたけど
今ではひとりで起きると つい
さみしくて きみの仕草のすべてを思い出す
こう言ってくれたよね
「いつも疲れてるのは生活が不規則だからでしょ」
È da tempo che non sento più
La tua voce al mattino che grida «bu»
E mi faceva svegliare nervoso ma
Adesso invece mi sveglio e sento che
Mi mancan tutti quei tuoi particolari
Quando dicevi a me
«Sei sempre stanco perché tu non hai orari...»
しばらくまえから料理をするとき
きみの分も作ってしまう
じぶんに閉じこもってるヤツになってしまったんだ
ほら、雨が降ると笑ってごまかすヤツさ
さみしくて きみの仕草のすべてを思い出す
こう言ってくれたよね
「さみしいのは本当の自分を出せないからでしょ」
È da tempo che cucino e
Metto sempre un piatto in più per te
Sono rimasto quello chiuso in sé
Che quando piove ride per nascondere
Mi mancan tutti quei tuoi particolari
Quando dicevi a me
«Ti senti solo perché non sei come appari»
ああ、今ごろきみに こんなこと言うのはよくないよな
けれど もうなにを感じているのかわからないんだ
もし神様が新しい言葉を創り出してくれさえすれば きっときみにこう言えるはず
ぼくらは旅のカバンにすぎなくて
でたらめな旅路をともにしてるんだってね
もし神様が新しい言葉を創り出してくれさえすれば
きっときみのために新しい愛の歌を書いて歌えるはずなんだ
ここで
Oh, fa male dirtelo adesso
Ma non so più cosa sento
Se solamente Dio inventasse delle nuove parole potrei dirti che
Siamo soltanto bagagli
Viaggiamo in ordini sparsi
Se solamente Dio inventasse delle nuove parole
Potrei scrivere per te nuove canzoni d’amore e cantartele
qui.
しばらくまえから 歩いていると
ずっと胸にざわつきを感じるようになった
きみがいるかと思って振り返るのだけれど
けっきょく ぼくのほかに何がいるのか わからない
さみしくて きみの仕草のすべてを思い出す
こう言ってくれたよね
「いつも疲れてるのは生活が不規則だからでしょ」
È da tempo che cammino e
Sento sempre rumori dietro me
Poi mi giro pensando che ci sei te
E mi accorgo che oltre a me non so che c’è
Che mancan tutti quei tuoi particolari
Quando dicevi a me
«Sei sempre stanco perché tu non hai orari...»
ああ、今ごろきみに こんなこと言うのはよくないよね
けれど もうなにを感じているのかわからないんだ
もし神様が新しい言葉を創り出してくれさえすれば きっときみにこう言えるはず
ぼくらは旅のカバンにすぎなくて
でたらめな旅路をともにしてるのさってね
もし神様が新しい言葉を創り出してくれさえすれば きっときみのために新しい愛の歌を書いて それをここで歌えるはずなんだ
Oh, fa male dirtelo adesso
Ma non so più cosa sento
Se solamente Dio inventasse delle nuove parole potrei dirti che
Siamo soltanto bagagli
Viaggiamo in ordini sparsi
Se solamente Dio inventasse delle nuove parole
potrei scrivere per te nuove canzoni d’amore e cantartele
qui
ぼくときみの仕草のあいだで
できるなら ここで歌いたい
もし神様が新しい言葉を創り出してくれさえすれば
きっときみにこう言えるはず
ぼくらは旅のカバンにすぎなくて
でたらめな旅路をともにしてるのさってね
もし神様が新しい言葉を創り出してくれさえすれば
きっときみのために新しい愛の歌を書いて歌えるはずなんだよ
ここで
Fra i miei e i tuoi particolari
Potrei cantartele qui
Se solamente Dio inventasse delle nuove parole potrei dirti che
Siamo soltanto bagagli
Viaggiamo in ordini sparsi
Se solamente Dio inventasse delle nuove parole potrei scrivere per te nuove canzoni d’amore e cantartele qui.
- アーティスト: Ultimo
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*1:「あのマムッド」というイタリア語は "quel ragazzo Mahmood" 。ragazzo が、自分と同年代か年下への呼びかけだとすrば、たしかにウルティモくんのこの物言いは失礼だよね。すぐに、あいつは何歳だい?なんて聞いているし、「あの男 "quel uomo"と言えばいいのか?」 なんて混乱している様子も伝わってくる。実際、マムッドは1992年生まれで、ウルティモは 1996年だから4歳年下。日本なら4歳上のお兄さんを呼びすてにはできないけど、イタリアは多少そのあたりはゆるい。とはいえ、明らかに敬意を欠いた言葉には聞こえたみたいではある。
https://www.gingergeneration.it/n/ultimo-giornalisti-ig-stories-346512-n.htm
*2:記者会見の様子はこんな感じだったらしい。となりにいるのは Il Volo の面々かな。