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雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

ドキュメンタリー映画の可能性


Sacro Gra - Official Trailer - YouTube

 

第70回ヴェネツィア映画祭の金獅子賞は、なんと劇映画ではなくドキュメンタリー映画に贈られるたという。しかもイタリア人監督ジャンフランコ・ローシによる国産のドキュメンタリー作品で、タイトルは『 Sacro GRA 』。

GRA とは Grande Accordo Anulare のことで、ローマを周辺を68キロにわたって回る環状高速道路のことだ。(http://ja.wikipedia.org/wiki/グランデ・ラッコルド・アヌラーレ)

この作品の受賞はイタリア人にも驚きだったらしいが、パノラマ紙の記事はその理由を5つ挙げて説明しようとしている。(http://cultura.panorama.it/cinema/venezia-2013-sacro-gra-rosi-leone-oro

 

5つの受賞理由をざっと見ておこうと思う。

 

まず第1の理由は、このドキュメンタリーの独自の視点にある。「控えめな人々 umili の都市周辺の世界を通してローマが見つめられている」というのだ。「GRA (ローマの大冠状道路)」の近辺は、ローマの中心部からは遠く離れた周辺地域だが、そこに住んでいる控えめな人々 umili は、普段は目にとまらない人々だ。けれども、そんな人々もまた、それぞれに興味深い人生を生きている。その断片を映し出し、ふだんは目に見えない個々人の姿を見るに値するものとしてとらえる視点が、この映画の独創的なところであり、これからも必要になるだろう。それが第一の理由だ。

  

第2の理由は、このドキュメンタリーに込められた希望のメッセージにある。単なる希望ではない。「危機に対抗する希望」のメッセージだ。この記事はここで、監督の言葉をこんなふうに引用している。「イタリアの大きな危機は、単に経済的な危機だけではありません。それは歴史のなかで循環的に起ることです。それだけではなく、それはアイデンティティの危機でもあるのです。だからわたしにとって、大いなるアイデンティティを持つ人々を見つけることは大切だったのです」。だからこそ、周辺世界から、小さく控えめな人々が生きている世界から、現在の危機への答えが生まれてくるのであり、復興への種子だ育つ。まさに GRA という「周辺地域」には、あるべき未来の姿が見えるようだというのだ(だからこそ「聖なる GRA 」というわけだ)。

記事によれば、希望のメッセージが受賞の理由となるのは、今回のヴェネツィア映画祭のコンクール部門に概して暗い作品が多かったことも考慮する必要がある。これに対して Sarcro GRA という作品は、「現実から目を背けることがないものでありながら、希望を与えてくれる」とこの記事は評価し、それを第2の受賞理由として挙げているのだ。

 

第3の受賞理由として挙げられるのは、映画祭のディレクターの方針転換だ。映画祭のディレクター、アルベルト・バルベーラは経済危機と映画祭を盛り上げるスターの存在が期待できないという問題に対応するため、今回はひとつの賭けに出る。コンクール部門の扉を開いて、ドキュメンタリー作品を受け入れることにしたのである(これは2004年のカンヌ映画祭ですでに行われ、マイケル・ムーアの『華氏911』がパルムドールを獲得していることを思い出しておこう)。実際、今回のコンクール部門には Errol Morris 監督のドキュメンタリー The Unknown Know も選出されている。こうしてまさに「ダムの決壊」のように、劇映画だけのものであったコンクール部門に、ドキュメンタリーが流れ込んで来たというわけだ。

 

審査委員長のベルナルド・ベルトルッチもそのことをわかっていたのだろう。だからこそ『Sacro GRA』に大賞をおくることで、バルベーラの決断を賞賛し、ドキュメンタリー映画にも映画としての尊厳を与えようとしたのではないかと、この記事は推測している。たしかに、ドキュメンタリーという表現方法は、私たちの時代においてはますます重要な証言者となっていることはまちがいないのだから、そう言うのである。

 

第4の理由は、他にずば抜けた作品がなかったことが挙げられる。そしてこれに加えて第5の理由としては、今回の映画祭が第70回という記念すべき節目にあたっていること、さらには審査委員長がイタリア人であるベルトルッチであることが挙げられている。つまりそこには、何らかの形でイタリア(映画)を懸賞する必要が感じられていたのではないというのだ。だからこそ、金獅子賞をイタリア人に、なによりも初めてコンクールに参加を認められたイタリア映画に与えることで、なんとか先の見えない暗いトンネルのなかにあるイタリアを刺激しようとしたのだろう。もちろん、ほかに卓越した作品がないという条件がなければならなかったのだが、少なくとも今回の受賞によって、イタリア映画界が刺激され、その創造性が活性化するのであれば、悪くことではないではないか、というのである。なにしろ、イタリア映画が金獅子賞を獲るのは、15年前のジャンニ・アメリオ監督による『いつか来た道 Così ridevano』(1998年の)以来のことなのだから。

 

なるほどね。そういういろいろな事情があったわけか。

 

けれどもひとつはっきりしていることがある。ぼくはこの『聖なるGRA』という作品、がぜん見たくなってきた。ドキュメンタリー映画の可能性を、この目で確かめたくなってきた。

 

配給会社のみなさん、ヴェネツィア映画祭の金獅子賞受賞作品でっせ。ぜひとも配給してくださいね。