雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

クランベリーズの『ゾンビ』を訳してみた

 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/7d/Birth_of_the_Irish_Republic.jpg


昨日、バンドメンバーからクランベリーズのある曲をやろうという提案があった。ギターを取り出してコードを探っていたのだけど、ぼくはどうしてもこっちの曲が頭から離れない。歌ってみるとシンプルなコードにキーも低め。案外いけるぞ、なんて思いながら歌っているうち、どうしてもその意味が気になってきた。

いったい、このゾンビって何なのだろう?

ちょっと調べてみると、ここに歌われる「ゾンビ」とは IRA の戦士たちのことらしい。そもそもこの曲は、1993年3月20日、ウォリントンの爆弾テロ事件にインスパイアーされたというのだ。このとき町の歩行者専用ゾーンにあるゴミ箱にIRAが仕掛けた爆弾が爆発する。負傷者は56名。命を奪われたのはジョナサン・ボール(3歳)とティム・パリー(12歳)のふたり。ベビーシッターと現場を通りがかったジョナサンはその場で死亡(ベビーシッターは重傷)、エヴァートンFCのシャツを買いに行ったティム少年は爆発が直撃、ほとんど脳の機能が停止、5日後に家族の了解を得て医療チームが生命維持装置を外したという。

じつは、このティム少年の父親は、ドローレス・オリダーリンが亡くなった時にはじめて、彼女の歌う『ゾンビ』が、じぶんの息子の命を奪ったIRAのテロ事件のことを歌った歌だということを知ったようだ。注意すべきは、ドローレス自身がアイリッシュだということ。北アイルランドの独立と統一を訴えるIRAのテロで息子をうばわれた父親としては、複雑なものがあるはずだ。けれども、この曲が生まれた事情を知り、そして始めてドローレスの歌声を聴いたこの父親は、「歌詞は素晴らしく、とてもリアルだった」として、「アイルランドのバンドによるこのような説得力のある歌詞を読むのは、ものすごくパワフルだ」と語ってる *1

パリー氏はテロの息子の死後に平和活動を続けて来たと伝えられているのだけど、だとすればドローレスの歌う『ゾンビ』に共感する理由はよくわかる。そこには明らかに、テロによって命の奪われたふたりの子どもの姿とともに、どんな大義があろうとも、戦車や銃や爆弾などで戦う兵士たちは、どこかで相手を間違えながら殺し続けるゾンビと化してゆくおぞましさを通して、どこかに遠くにあるはずの平和を希求するものだからだ。 

もちろん、アイリッシュである彼女には、IRAの大義に共感するところがないわけではないはずだ。しかしそれは、歌詞のなかで歌われているように、「1916年」の復活祭週間にアイルランドで起きた武装蜂起*2のころから、1993年のテロ事件にいたるまで、ほとんど変わることなく、そのおぞましい姿のままに、「あなたたち頭の中に in your head 」を彷徨い続けているのではないかと、批判しているのではないだろうか。

それにしても、ドローレスは声がよい。どこかに倍音が入っているようなその響きには、おもわず惹きつけられてしまう。低いところでハードに「がなり」を入れるのだけど、きれいな裏声へとその声をひらりと転換させるコントラストのつけ方が見事だし、なによりも、言葉のひとつひとつを、きっちりと舌に乗せてぼくたちに届けてくれる。ぼくなんかには、つい、声だけで歌っていたマリア・カラスに言葉をきちんと歌うように教えたヴィスコンティの教えを思い出してしまう。

ちなみに、ドローレスという名前は María de los Dolores (苦悩のマリア)に起源をもつファーストネーム。ローラやロリータなんかも同じ語源だけど、その直接の意味は「苦しみ・悲しみ」で、そこに聖母的なアウラを立ち上げるものだ。アイルランドカトリックの国だから、おそらくドローレスもまたカトリック。だからこそ、この曲のビデオクリップでは、黄金に染め上げられた彼女が、苦しげに喘ぎながら、十字架の前に立っているわけだけれど、それまさに「苦悩のマリア」そのものではないか。

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前置きが長くなったけど、今年のはじめの1月15日、46歳の若さで急逝したクランベリーのヴォーカル、ドローレス・オリダーリンの人生を想いながら、その代表作を日本語にしてみました。

ではどうぞ。

またひとり深くこうべを垂れる
ゆっくり子どもが連れ去られてく
暴力がこの沈黙をもたらしたのね
いったい誰を取り違えてるの?

Another head hangs lowly
Child is slowly taken
And the violence caused such silence
Who are we mistaking?

 

でも ほら 自分じゃない
自分の家族でもない
あんたたちの頭のなかで
あいつらが戦っている
あの戦車 あの爆弾で
その爆弾 その銃を手に
あんたたちの頭の中で泣き叫んでる
But, you see it's not me
It's not my family
In your head, in your head
They are fighting
With their tanks and their bombs
And their bombs and their guns
In your head in your head they are crying


あんたたちの頭のなかに
あんたたちの頭のなかに
ゾンビ ゾンビ ゾンビたち
何なの頭のなかにいるのは?
ゾンビ ゾンビ ゾンビたち

In your head
In your head
Zombie, zombie, zombie, ei, ei
What's in your head?
In your head
Zombie, zombie, zombie ei, ei, ei, 
oh do do do do 
do do do do

 

またひとりの母親が
心を打ち砕かれていく
暴力が沈黙をもたらすとき
きっと取り違えられてしまうのね

Another mother's breaking
Heart is taking over
When the violence causes silence
We must be mistaken


1916年(イースター蜂起)から変わらない
あんたたちの頭 そのなかに
あいつらがまだ戦っているのよね
あの戦車 あの爆弾で
その爆弾 その銃を手に
あんたたちの頭の中で泣き叫んでる

It's the same old thing since 1916
In your head, in your head
They're still fighting
With their tanks and their bombs
And their bombs and their guns
In your head in your head they are crying

 

 ちなみに、メタルバンドの Bad Wolves はこの曲をカバーを計画し、ボーカルにはドローレスの参加も予定されていたという。曲は歌詞が少し変更されていている。「1916年からずっと」の部分が「2018年になっても同じことだ」となっているほか、「銃や爆弾」に加えて「ドローン」が加えられてるのが、いかにも「2018年のゾンビたち」の姿をとらえる描写で興味深い。なお、このクリップに出てくる黄金の女性はもちろん、亡きドローレスへのオマージュだ。

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 さらに、エミネムのこんなトリビュートも興味深い。

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追記:
デモ音源としてキーAまで下げて歌ったら、バンドのメンバーが少し手を入れてくれた。ご笑聴 (^^) 

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Zombie

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Zombie

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Zombie (Live in Madrid)

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ゾンビ

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In Your Head

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