雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

Blackstar (D.Bowie) を訳してみた

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前記事にも書いたけど、このところボウイの『ブラックスター』をずっと聴いている。

音楽的な部分では、かなりフリージャズのテイストが効いていて、ロックンロールというよりはエレクトロニカとジャズが融合したような音が実に印象的。実際、The Rolling Stones 紙の記事によれば、2014年の春、ボウイはニューヨークの老舗ジャズクラブ 55 Bar で、Donny McCaslin (サックス)の率いるカルテットの演奏を聴き、ブラックスターというアルバムの音作りに協力を求めたのだという。

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なるほど、音楽的には常に既成の枠組みを破壊してきたジャンルブレーカだけのことはある。若いジャズのカルテットを引き込んで、新しい音に挑戦したというわけなのだが、それを「最後まで挑戦し続けた」と言えば、あの日経新聞が喜びそうな話になってしまう。

実際、日経新聞の春秋には「アルバムを出すごとに曲調が全く違い、見た目も変化した。昔からのファンをがっかりさせることもあったが、常に変わり続けることで新たなファンを獲得してほぼ半世紀、芸能界の最前線に立ち続けた」とあり、「亡くなる2日前」に最新作が発表されたことを受けて、「時代の変化に乗り遅れがちな日本の経営者は、そこにもよく注目してほしい」という。

それにしても、「そこもよく注目してほしい」とはどこのことか?おそらく日経新聞が日本の経営者への教訓というのは、「時代の変化に乗り遅れず」「常に最前線に立ち」、死ぬ直前まで働くことなのであろう。

でも、ちょっと待って欲しい。ボウイがそんなことを伝ようとするはずがないではないか。僕はそう思ったのだけれど、それをうまく言葉にできない。どうもすっきりしない思いを抱えながら、ボウイの遺作を聴き続けると、だんだんと音楽的な部分よりも、その歌詞の内容が気になってきたのである。

先ほどのThe Rolling Stones 紙の記事によれば、この歌詞、ロンドンっ子なら大抵は意味がわかるものだという。でも残念ながら、ぼくはロンドン英語なんて見当もつかない。困ったなと思っていると、ネットにこんな見事な歌詞の解説サイトがあるではないか。

genius.com

ここサイトのおかげで、うまく意味が取れなかった部分も、少しわかるような気がしてきた。もちろん、まだまだわからないこともあるし、僕なんかには、とてもボウイのヴォイスはつかみきれないのだけれど、少なくとも日経のコラムが教訓とするようなボウイの姿はここにはない。ただそのことだけでも書き留めたくて、思い切って日本語に訳してみることにした。

きっと誤解しているところも多々あると思うのだけど、おかしなところはどうかご指摘くださいな。わかる方は、是非是非、ご教授のほどを。

ではご笑覧。

 

In the villa of Ormen, in the villa of Ormen

Stands a solitary candle, ah-ah, ah-ah

In the centre of it all, in the centre of it all

Your eyes

 

オルメン*1の村の館のなか オルメンの村の館のなか

ロウソクがただ一本だけ灯っている*2 あゝ あゝ

そのすべての中心に そのすべての中心には

おまえの瞳

 

On the day of execution, on the day of execution

Only women kneel and smile, ah-ah, ah-ah

At the centre of it all, at the centre of it all

Your eyes, your eyes

 

やり遂げられたその日、やり遂げられたその日

女たちだけが跪いて微笑む あゝ あゝ

そのすべての中心に そのすべての中心には

おまえの瞳

 

Something happened on the day he died

Spirit rose a metre and stepped aside

Somebody else took his place, and bravely cried

(I’m a blackstar, I’m a blackstar)

 

彼が死んだ日に何かが起こったのさ

魂は1メートルほど浮き上がって場所を譲ると

他の誰かがそこに入って 果敢に叫んだ

「私はブラックスター」

 

How many times does an angel fall?

How many people lie instead of talking tall?

He trod on sacred ground, he cried loud into the crowd

(I’m a blackstar, I’m a blackstar, I’m not a gangstar)

 

いったい何回 天使は堕ちるのか?

いったい何人の人が 正しく話さず嘘をつく?

彼は聖なる地に足を踏み入れると 

群衆に向かって大声で叫んだのさ

「私はブラックスター 

 私はブラックスター 

 ギャングスターじゃない」

  

I can’t answer why (I’m a blackstar)

Just go with me (I’m not a filmstar)

I’m-a take you home (I’m a blackstar)

Take your passport and shoes (I’m not a popstar)

And your sedatives, boo (I’m a blackstar)

You’re a flash in the pan (I’m not a marvel star)

I’m the Great I Am (I’m a blackstar)

 

私には何故か答えられない

「私はブラックスター」

立ち去るがよい 私とともに

「私は映画スターではない」

おまえを故郷に連れ帰るもの それが私だ

「私はブラックスター」

パスポートを手にせよ 靴を履くんだ

「私はポップスターではない」

鎮静剤*3も忘れないでくれよ

「私はブラックスター」

おまえは 火打皿の火花*4

「私はマーヴェルのスターではない」

私は 偉大な “有って有るもの” *5

「私はブラックスター」

 

I’m a blackstar, way up, on money, I’ve got game

I see right, so wide, so open-hearted pain

I want eagles in my daydreams, diamonds in my eyes

(I’m a blackstar, I’m a blackstar)

 

私はブラックスター 金もある 魅力もある

かくも心優しい厄介者の面倒を見よう

欲しいのは白昼夢の鷹 瞳の中のダイヤモンドさ

「私はブラックスター」

 

Something happened on the day he died

Spirit rose a metre then stepped aside

Somebody else took his place, and bravely cried

(I’m a blackstar, I’m a star's star, I’m a blackstar)

 

彼が死んだ日に何かが起こったのさ

魂は1メートルほど浮き上がって場所を譲ると

他の誰かがそこに入って 果敢に叫んだ

「私はブラックスター 

 私はスターのスター 

 私はブラックスター」

 

I can’t answer why (I’m not a gangstar)

But I can tell you how (I’m not a film star)

We were born upside-down (I’m a star's star)

Born the wrong way ‘round (I’m not a white star)

(I’m a blackstar, I’m not a gangstar

I’m a blackstar, I’m a blackstar

I’m not a pornstar, I’m not a wandering star

I’m a blackstar, I’m a blackstar)

 

私になぜかは答えられない

「私はブラックスター」

それでもやり方は教えてやれる

「私は映画スターではない」

私たちは逆さまに生まれてきたのだ

「私はスターのスター」

間違った方向に生まれてきたのだ

「私はホワイトスターではない」

「私はブラックスター

 ギャングスターではない

 私はブラックスター

 私はブラックスター 

 ポルノスターではない

 さまようスターでもない

 私はブラックスター

 私はブラックスター」

 

In the villa of Ormen stands a solitary candle

Ah-ah, ah-ah

At the centre of it all, your eyes

 

オルメンの村の館のなか 

ロウソクがただ一本だけ灯っている

あゝ あゝ

そのすべての中心には 

おまえの瞳

 

On the day of execution,

only women kneel and smile

Ah-ah, ah-ah

At the centre of it all, your eyes, your eyes

Ah-ah-ah

 

やり遂げられたその日 

女たちだけが跪いて微笑む 

あゝ あゝ

そのすべての中心には 

おまえの瞳

あゝ あゝ

  

★

 

 

 

Blackstar

Blackstar

 

*1:オルメンはノルゥエイの村の名前Ørmen 。この “Ormen” はノルゥエイ語で「蛇」を意味するので、そのまま訳せば「蛇村」となる

*2:文字通りには「孤独のロウソク」ということだが、そのたった一つロウソクの炎からいくつもの他のロウソクに火をつけることができるという比喩。ボウイは、このロウソクのことをISISだと語った言われているが、確証はないらしい。少なくとも僕には、何か宗教的な生命力の根源を指しているように思われる。

*3:ボウイは飛行機嫌いで知られているが、飛行中に飲む鎮静剤のことだろう

*4:a flash in the pann : つかの間の存在と言うこと

*5:出エジプト記 3.14 :神はモーセに言われた、《わたしは、有って有る者》。また言われた、「イスラエルの人々にこう言いなさい、『《わたしは有る》というかたが、わたしをあなたがたのところへつかわされました』と」