雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

僕らの良心の検証のために:"Solo andata" を訳す

 

2月になっても胃の痛くなるようなニュースが続いている。

 

11日、シチリア海峡で330人の移民が溺死したという。ヨーロッパに希望を求めた彼らは、なけなしの金を巻き上げられ、たよりないボロ船に押し込まれ、リビアの海岸から冷たい冬の地中海に投げ出されたと伝えられる。地中海に漂流する移民対策としては、すでにイタリア政府主導によるマーレ・ノストルム作戦終結し、欧州連合によるトリトン作戦が始まっているが 、この新しい難民救出作戦の有効性が問われる事態となっている*1

 

くわえて、15日には、ダーイッシュ(ISIL)がリビアの海岸でキリスト教の一派であるコプト教徒のエジプト人約20人の首をはねて殺害したとするビデオを公開した。アメリカによって殺害されたビンラディンの遺体が捨てられた海に、キリスト教徒の血を混ぜてやろうという言葉が伝えられている。すでにエジプト政府は、これに対する報復としてリビアのダーイッシュの拠点への空爆を開始したと報道された。ヨーロッパにとっても、とりわけイタリアには、目と鼻の先の出来事だ。すでに1月にはリビアトリポリでイタリア人医師が行方不明となっている。そして今リビアからは次々とイタリア人が引き上げてきている。イタリア軍の派遣も検討されているようだ。その一方、前首相のロマノ・プロディのように、リビアなど北アフリカ地域の混乱の原因を作ったのはヨーロッパ自身であるという声も聞こえてくる。

 

そうなのだ。ある意味では、ヨーロッパこそが中東やアフリカに混乱の種をまいてきた張本人でもあるのである。資本主義は、中東の石油やアフリカの労働力と市場がなければやってゆけない。そしてその歴史は、この地域と深い関わりを持っていることもまた忘れられないものなのだ。他人事ではなく自分たち自身の問題だというのである。

 

そんな意識から生まれたのが、ここに紹介する “Solo andata” (片道)だ。歌詞はナポリの詩人エッリ・デ・ルーカ(この詩人が地中海の移民をうたった詩 “Preghiera laica”(世俗の祈り)は以前の記事で紹介した)。演奏はプーリアを拠点とするグループ Canzoniere Grecanico Salentino 。ビデオクリップの監督はアレッサンドロ・ガズマン(父親のヴィットリオはイタリアを代表する名優だった)。

 

ぼくはこの歌に、イタリアの良心の検証を感じている。その歌詞と映像は、大きな歴史の流れのなかで今の自分が誰なのかという問いを突きつけてくるようだ。そしてそれは、遠く日本に暮らす僕らにとっても決して他人事ではない。むしろ、僕らこそは今、ここに見られるような良心の検証が求められているのではないか、そんなふうに思えてならないのだ。

 


CANZONIERE GRECANICO SALENTINO "SOLO ...

 

もどれない道

 

我ら無数の民にして

チェス盤のマスも倍に広がり

汝らの海をこの身で舗装し

その上を歩く者なり

 

我らを数えること能わず

数えるほどに増える我ら

水平線の子にして

次々こぼれ来る者なり

 

我ら警察に蹂躙されることなし

すでに十分の辱めを受けてきた我ら

汝らが生まぬ息子に代わり奴隷となろう

我らの生命で汝らの冒険譚となろう

 

我れらのもたらすはホメロスとダンテ

盲目の詩人と流浪の詩人

汝らの失って久しい体臭

汝らの顧みない平等の思想

 

どれほど距離があろうとも

我らは何百万の歩みでもって到来しよう

我れは足となり汝らの重荷を支えよう

雪をかき 草を刈ろう

 

カーペットの埃を叩き

侮蔑とともにトマトを摘み取ろう

我らは足にして

一歩一歩踏みしめる大地を知る者なり

 

我らは大地の赤にして黒

底の抜けたサンダルで来る海の彼方

花粉と塵にして

今宵の風に舞う

 

我らのひとり 我らの名において

かく告げし「我を追い払うことかなわず

よし今は死ぬとても 3日のうちに

蘇って帰って来よう」

 

地中海に抱かれて

アフリカの移民とオリエントの移民

波間の奥へ沈みゆく

故郷より持参されし種の袋

海藻と毛髪の間隙に播かれゆく

揺れぬ大地イタリアは閉ざされし大地

彼らを溺れゆくにまかせ拒絶する

 

 

原文はこちら:

 

“Solo andata”  

 

Siamo gli innumerevoli
raddoppia ogni casella di scacchiera
lastrichiamo di corpi il vostro mare
per camminarci sopra

Non potete contarci:
se contati aumentiamo,
figli dell'orizzonte
che ci rovescia a sacco

Nessuna polizia può farci prepotenza
più di quanto già siamo stati offesi
faremo i servi, i figli che non fate
le nostre vite i vostri libri di avventura

Portiamo Omero e Dante,
il cieco e il pellegrino
l'odore che perdeste
l'uguaglianza che avete sottomesso

Da qualunque distanza
arriveremo a milioni di passi
noi siamo i piedi e vi reggiamo il peso
spaliamo neve, pettiniamo prati

Battiamo tappeti
raccogliamo il pomodoro e l'insulto
noi siamo i piedi
e conosciamo il suolo passo a passo

Noi siamo il rosso e il nero della terra
un oltremare di sandali sfondati
il polline e la polvere
nel vento di stasera

Uno di noi, a nome di tutti,
ha detto "non vi sbarazzerete di me
va bene, muoio, ma in tre giorni
risuscito e ritorno"

In braccio al Mediterraneo
migratori di Africa e di oriente
affondano nel cavo delle onde.
il pacco dei semi portati da casa
si sparge tra le alghe e i capelli
La terraferma Italia è terrachiusa.
Li lasciamo annegare per negare.


Canzoni contro la guerra - Solo andata

 

 

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*1:この SWISS INFO. の記事や JBpress の記事を参照のこと