以下に、土曜日のセミナーについて備忘のためツイートしたものまとめておきますね。
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土曜日の立川のセミナーには大勢のみなさんに来ていただいて有り難かった。ただ、準備不足というか、準備を始めると次々とネタが出てきて収拾つかず。南イタリアと映画というテーマは、面白いけど、ハマれば泥沼。
発見のひとつはデ・シーカの Un Garibaldino al convento (1942)。ガリバルディの千人隊シチリア上陸を扱った軽喜劇なんだけど、これが思いがけず面白い。まるで西部劇なんだけど、ブルボンの兵士のへなちょこぶりと赤シャツ隊のかっこいい隊長役になんとデ・シーカ本人が!
若い赤シャツ隊の兵士に惚れる寄宿舎の女子学生をマリア・メルカデルが演じているんだけど、デ・シーカとは事実婚状態。なるほど可愛く撮るはずだわさ。作曲家マヌエルと俳優のクリスチャンの二人は彼女との子なんだね。
もうひとつの発見はロッセリーニの『戦火のかなた』のシチリアのエピソードは、アマルフィの隣にあるマイオーリで撮影されたってこと。アッペンニーノの修道院のシーンが撮影されたのは知ってたけど、実は彼、シチリアまで行っていなかったんだね。
マイオーリといえば、マンニャーニと髪を金髪に染めたフェリーニが共演した『奇跡』が撮影された場所だし、バーグマンの『イタリア旅行』の見事なラストシーン、聖母マリアの行進もここ。マイオーリという海の保養地は、ロッセリーニのお気に入りの場所だったというわけらしい。
『イタリア旅行』の主な舞台はナポリだけど、ちょっと気になった場所がポッツォーリのソルファターラ(硫気孔)。箱根でかつて「地獄谷」と呼ばれた場所なんだかけど、そこをバーグマンが訪ねるシーンがちょっと面白い。
実はこの映画、もともとはシドニー=ガブリエル・コレットの『Duo』(1934)を原作に考えていたらしいのだけど、撮影間近にして許可がおりないことがわかって、それでも撮影を決行しちゃったというもの。だから脚本もなにもない状態で、とにかくバーグマンに観光地を訪ねさせて、フィルムに収めてしまえということだったらしい。なるほど、だからバーグマンの髪がぐちゃぐちゃなわけだ。
(ところでコレットの『Duo』って和訳はあるのかしらね?ちょっと検索したけど見つかりませんでした。ちょっと読んでみたいよね。それにコレットという作家もすごく気になるところ)
しかも、このころには付き合って数年になるロッセリーニとバーグマンには、じつのところ倦怠期にあったのだといも言われている。それがナポリの地に映画の撮影に来ればなんとかなると、本人が思ったかどうかはしらないけれど、興味深いことではある。なにしろナポリは、あのゲーテをして驚かせた場所。このドイツの文豪曰く「ナポリは天国みたいだ。ここではだれもが陶酔した自己忘却のようなもので生きているのだから」。ロッセリーニもおそらく、この地の人々に同じような何かを感じたのだろうか。
それから土曜日には、以前別の場所で話したパストローネの『カビリア』と、ヴィゥコンティの『揺れる大地』『山猫』のことに触れたのだけど、そのあたりで時間切れ。面白いと思ったアントニオーニの『情事』とパゾリーニの『奇跡の丘』を話せなかったのが残念。
とりわけアントオーニがシチリアを撮る不思議。故郷とは光が違いすぎるから嫌だと言っていたのに、エオリア諸島の岩礁の島リスカ・ビアンカでの苦しい撮影と、シチリア島をめぐる旅のなかで、アントニオーニ的な風景が前面化。まさに新しい風景、新しい映画の発見だったわけだ。
ただ、そんなアントニオーニの風景を、じつのところロッセリーニの『イタリア旅行』が先取りしていたというのが、今回の驚きであり、ぼくの個人的な発見だった。そして、その驚きはパゾリーニの『奇跡の丘』へとつながってゆく。
『奇跡の丘』の舞台はイタリアではない。しかしパゾリーニは、古のガラリア湖周辺を南イタリアの洞窟住居で知られるマテーラに見出す。おそらく映画のロケに使われたのは初めて。今でもこそ復興し観光地化した洞窟の街だが、当時はまさにパゾリーニの求める原初的な状況が残っていた。
この異他なる地に、パゾリーニは自分の母や友人を連れてきてイエスの周りに配置すると、地元の住人たちをエキストラに起用、その対比がそのまま映像としてのダイナミズムを生むことになる。そして、それはまた、南イタリアの発見でもあったというわけだ。
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