雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

Azzurro (1968) 訳してみた

AZZURRO / 2012 REMASTER

 

この曲には個人的な思い出がある。

イタリア語を習い始めの頃だ。ローマから来た留学生に『Azzurro』が入ったアルバムをプレゼントしてもらった。自分はそんなに好きじゃない。そういいながら彼女は、でもイタリア語やるなら持っておいてよいと思う。たしかそんな言葉とともに。LPに針落として聞く。なんだか不思議な音だ。なかでも耳に残ったのがこの曲だった。

アドリアーノ・チェレンターノの1968年のヒット曲。シングルのA面は『Una carezza in pugno』で、こっちはB面だったらしいけれど、どちらも印象的な曲で、どちらも大ヒットしたという。ぼくが聞いたのは1980年代だけれど、古いという感じはない。ただ不思議な音だった。

曲を提供したのはパオロ・コンテ。歌詞にも彼の手が入っているのではないかという人もいる。じっさい、コンテがセルフカバーしたヴァージョンもあって、それはそれで印象的だ。コンテに言わせると、チェレンターノの良いところは、そのころ流行りの甘っちょろい高音で歌わないところだという。低い地声で、ふつうに話すように歌うチェレンターノの歌声は、たしかに聴きやすく、イタリア語の一語一語がはっきりとした輪郭をもって伝わって来る。それだからだろう。メロディーラインがじつにイタリア的な響きを持つのだ。

もともと音楽的だと言われるイタリア語。しかしポップスでは、英語に合わせたメロディーラインに無理やりイタリア語を載せたものが、しばしば見られた。そういうポップスが、パオロ・コンテはきらいだったのだろう。しかし、チェレンターノは違った。彼自身はビル・ヘイリーやプレスリーのコピーからキャリアをスタートさせているが、その独特のダミ声で、ロックンロールにイタリア語を乗せてゆくのだ。

そして1968年という異議申し立ての時代に登場したのが『Azzurro』。当時の時代を反映するというよりは、当時にあって少し時代遅れのように見える歌詞とメロディーだった。それがヒットの原因だったのかもしれない。

この曲が歌うのは、イタリア人の誰もが待望している夏のヴァカンスのこと。それは一年を働いたご褒美であり、誰もが仕事を休んで海に、山に長期の休暇にでかけてゆく。とりわけ、戦後の経済発展を経たイタリアでは、ヴァカンスがまさに国民的な行事になっていたころ。しかし、チェレンターノの言葉は、そんな夏のヴァカンスから取り残された男の姿を描き出す。その妻か、あるいは恋人はもうビーチに出かけてしまった。しかし、彼は街に残っている。仕事があるからか。それとも別の理由か。

チェレンターノは、ヴァカンスを楽しめない男を歌う。夏の空を飛行機が飛び去るときの轟音は、彼にとって屋根の上から浴びせかけられるブーイングだ。ヴァカンスに行かないおバカさんというヤジのようなものなのだろう。しかし、一人で仕事をするのが楽しいわけではない。夏の抜けるような青い空のもと、仕事が終わった午後はひたすらに長い。しかも彼女はいない。彼女がいなければ、生きるためのリソースがないに等しいこの男は、すぐにでも列車に乗って、彼女のもとに向かおうとするのだが、どういうわけか、列車はヴァカンスへと向かってくれない。気持ちとは裏腹に、反対方向に走り出してしまうのだ。

このシュールな列車が何を表しているのか謎だ。けれども、素直にヴァカンスを楽しめない、楽しませない何ものかが、行く手を阻んでいる。阻むどころか、逆方向へと列車を走らせる。欲望の求めるものが、手を伸ばせば伸ばすほど遠ざかってゆく。そんな悪夢の1行が、リフレインのなかに繰り返される。

おそらくはそれが、1968年のイタリアの人々の琴線に触れたのだ。じっさい、パオロ・コンテが、アドリアーノが歌ったこの曲のデモ音源を家に持ち帰って母親と聞いたところ、母親が泣したというのではないか。なぜ泣いたのか。それはパオロにもわからなかったという。しかし、このエピソードはあきらかに、この曲のなかにあるひとつの時代精神のありかをマークしている。ぼくには、そんなふうに思えるのだ。

そういえば、この曲、今公開中のガブリエーレ・ムッチーノ『家族にサルーテ(A casa tutti bene)』のなかで、登場人物たちが声を合わせて歌ってくれるシーンがある。ムッチーノの作品にはほかにも『Una carezza in pugno』も登場する。1968年を生きた世代が感動した歌が、今だに歌い継がれるというシーンに、ぼくも思わずホロリとさせられたことを告白しておく。

filmarks.com

ではYouTube の映像に続いて、『Azzurro』の拙訳(対訳)をどうぞ。

www.youtube.com

 

空の青 Azzurro 

 

1. 

待ち焦がれた一年 そして突然の夏

彼女はビーチに出かけ 街にはオレひとり

頭上からのブーイング 遠ざかる飛行機

 

Cerco l'estate tutto l'anno e all'improvviso eccola qua.

Lei è partita per le spiagge e sono solo quaggiù in città, 

sento fischiare sopra i tetti un aeroplano che se ne va.

 

青い空、あまりに青くて長い午後

気づけば お前なしで なにもできないオレがいる

だから 列車に乗って そちらに向かおうと思うのに

欲望の列車は 気持ちの逆へと 走りだす

 

Azzurro, il pomeriggio è troppo azzurro e lungo, per me, 

mi accorgo di non avere più risorse senza di te, 

e allora io quasi quasi prendo il treno e vengo vengo da te.

Ma il treno dei desideri nei miei pensieri all'incontrario va.

 

 

2. 

思い出の教会の集会所 まぶしい太陽、何年も前のこと

日曜は教会の中庭を ひとりブラブラするしかなかった

でも今のほうがずっと退屈 おしゃべり相手の神父さえいないから

 

Sembra quand'ero all'oratorio, con tanto sole, tanti anni fa.

Quelle domeniche da solo in un cortile, a passeggiar.

Ora mi annoio più di allora, neanche un prete per chiacchierar.

 

青い空、あまりに青くて長い午後

気づけば お前なしで なにもできないオレがいる

だから 列車に乗って そちらに向かおうと思うのに

欲望の列車は 気持ちの逆へと 走りだす

 

Azzurro, il pomeriggio è troppo azzurro e lungo, per me, 

mi accorgo di non avere più risorse senza di te, 

e allora io quasi quasi prendo il treno e vengo vengo da te.

Ma il treno dei desideri nei miei pensieri all'incontrario va.

 

3. 

庭にアフリカを探してみる キョウチクトウバオバブのあいだで

小さい頃にそうしたように でもここには人がいて もう無理か

水をやるのはおまえのバラ、でもライオンはいない、どこにいったのか

 

Cerco un po' d'Africa in giardino, tra l'oleandro e il baobao,

come facevo da bambino, ma qui c'è gente, non si può più,

stanno innaffiando le tue rose, non c'è il leone, chissà dov'è.

 

青い空、あまりに青くて長い午後

気づけば お前なしで なにもできないオレがいる

だから 列車に乗って そちらに向かおうと思うのに

欲望の列車は 気持ちの逆へと 走りだす

 

Azzurro, il pomeriggio è troppo azzurro e lungo, per me, 

mi accorgo di non avere più risorse senza di te, 

e allora io quasi quasi prendo il treno e vengo vengo da te.

Ma il treno dei desideri nei miei pensieri all'incontrario va.

 

AZZURRO / 2012 REMASTER

AZZURRO / 2012 REMASTER

 
Azzurro (Remastered)

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Azzurro

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Una Carezza In un Pugno

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