雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

母の日の翌日、パゾリーニを訳してみた

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昨日はずっと「親和力」のことを考えていた。母の日だったのだ。だから、今朝、一日遅れのイタリアからパゾリーニの詩が届いたのだけど、それはまさに「親和力」についての詩だと気がついた。タイトルは「母への懇願 Supplica a mia madre 」(1962年) *1。そこには深く、激烈で、狂おしいコトバが、夜のない世界の空の超新星のように、その残酷な輝きを放っている。

 

その輝きを追いかけながら、日本語でとらえることを試みた今朝。うまく訳せているかどうかというよりも、訳しながらあの輝きに近づけるような気になれたことが、少しだけ嬉しい。では以下にその嬉しさの痕跡を置いておきます。ご笑覧。

 

È difficile dire con parole di figlio
ciò a cui nel cuore ben poco assomiglio.
 
息子の言葉で口にするのは難しいもの、
心の中でまったくらしからぬ思いを抱いていることを。
 
Tu sei la sola al mondo che sa, del mio cuore,
ciò che è stato sempre, prima d’ogni altro amore.
 
この世であなただけは知っていますね、ぼくの心が
これまでどうであったか、まだほかにどんな愛も知らないときに。
 
Per questo devo dirti ciò ch’è orrendo conoscere:
è dentro la tua grazia che nasce la mia angoscia.
 
だからこそ言わせてもらいます、知るも恐ろしいことを、
そんなあなたの慈愛のなか、ぼくの苦悩は生まれるのです。
 
Sei insostituibile. Per questo è dannata
alla solitudine la vita che mi hai data.
 
あなたしかいない。だからこそ呪われたのですよ
孤独へと、あなたがくれた人生は。
 
E non voglio esser solo. Ho un’infinita fame
d’amore, dell’amore di corpi senza anima.
 
でもひとりはいやなのです。ぼくには果てしのない
愛への渇望が、魂のない肉体への愛があるのですから。
 
Perché l’anima è in te, sei tu, ma tu
sei mia madre e il tuo amore è la mia schiavitù:
 
だって魂はあなたのなかにあるのです、あなたなのですよ、
なのにあなたはぼくの母、あなたの愛がぼくを縛る。
 
ho passato l’infanzia schiavo di questo senso
alto, irrimediabile, di un impegno immenso.
 
こどものぼくはそんな想いに縛られていたのです
高尚で取り返しのつかない想い、まるで厖大な責務みたいでした。
 
Era l’unico modo per sentire la vita,
l’unica tinta, l’unica forma: ora è finita.
 
そうすることでしか、生きていると感じられなかったのです
たったひとつの色、たったひとつの形式。でももう終わったのです。
 
Sopravviviamo: ed è la confusione
di una vita rinata fuori dalla ragione.
 
いっしょに生き延びましょう。ここにある混乱は
新しい人生が道理の外で生まれ変わったからなのです。
 
Ti supplico, ah, ti supplico: non voler morire.
Sono qui, solo, con te, in un futuro aprile…
 
おかあさん、お願いです、死ぬなんて言わないでほしい。
いっしょにいますから、ふたりきりで、まだ来ない4月に… 
 
Pier Paolo Pasolini
ピエル=パオロ・パゾリーニ 

 

パゾリーニ詩集

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*1:この詩を最初に知ったのは『ペッピーノの百歩』だったっけ。なお、日本語訳としては四方田犬彦のものがある『パゾリーニ詩集』(みすず書房、2011年)PP.295-297.