雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

韓国大統領選、東京喰種、そして Us and Them

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近くて遠いとなりの国 韓国はどこへ行く? - 放送内容まるわかり! - NHK 週刊 ニュース深読み

 

今朝(5月13日)の「NHKニュース深読み」で、文在寅ムン・ジェイン)という研究者の言葉にハッとさせられた。北と戦争が始まると、まっさきに戦場に駆り出されるのは、これから兵役につく若者だ。だからこそ、緊張が高まっている今、融和を訴える候補に票を入れたのだという。そうなのだ。戦場なんて誰も行きたくない。 

 

でも、忘れてはならないことは、韓国がいまだに戦争状態であること。だから南北の38度線は国境ではなく軍事境界線であり、韓国人のすべての男性は「19歳~29歳の間に約2年間の兵役につく義務」が課せられている。北と戦争が始まると、まっさきに戦場に駆り出されるのは、そんな若者なのである。 

 

そういう意味では、兵役を終えた年配者が強硬派に票を入れるのは、喉元過ぎればということなのかもしれない。ピンク・フロイドの歌に『ぼくらとあいつら(Us and them)』というのがあるけれど、そこにあるこんな歌詞を思い出す。 

 

Forward he cried from the rear 

and the front rank died. 

And the general sat and the lines on the map 

moved from side to side. 

 

前進せよ、彼が背後からそう叫ぶと、

前線では人が死んだのさ。

そうすると将軍は腰をおろしてさ、地図の上のラインが

端から端へと動いたのだよ。

 

韓国社会でいれば、「あいつら(them)」から遠くはなれたところに「ぼくら」(若者たち)がいるわけだ。若者たちは、兵役を前にしているだけではない。就職という関門もひかえている。財閥系の企業の狭き門に入ることができるか否かで、将来が大きく変わる。 

 

一方で、兵役を終えた年配者がいる。あるいは、すでに就職した労働者や、安定した年金生活者となった人々からすれば、「あいつら(them)」は若者たちなのだ。そして、就職した人のなかでも、財閥系企業や公務員のポストを得た「あいつら」に対して、生活の苦しい圧倒的多数の「ぼくら」がいるし、年金生活を遅れている「あいつら」に対して、老後の保障がなく自殺するしかないところまでおいこまれる「わたしたち」がいるわけだ。(韓国では国民皆年金はまだ始まって日が浅く、きちんと年金をもらえていない人も多いらしい)。 

 

話は飛ぶのだけれど、「ぼくらとあいつら」という対立軸は、最近見たTVアニメ『東京喰種トーキョーグール』にもそれがある。グールというのは、どうやらイスラム教誕生以前から伝わる屍食鬼のことらしいのだけど、血を吸うかわりに肉を食らうヴァンパイアとでもいえばよいのだろうか。人間とは種が異なり、生物学的には、交配困難だが不可能ではないという距離であることから、「喰種」(くいしゅ/グール)と呼ばれる。人間を喰らう人間の天敵という設定なのだ。

 

物語の始まりは、もちろんグールが「あいつら」であり、人間が「ぼくら」なわけだが、主人公である人間の少年は、あることがきっかけで、グールになってしまう。交わらないはずの種を交わらせるという仕掛けによって、物語は単なるバトルものを超えてゆく。「あいつら」だってはずのグールが「ぼくら」になり、「ぼくら」だったはずの人間から「あいつら」とみなされること。この混淆によって、トーキョーはリアリティを獲得し、そこに寓意を読み取りたくなる誘惑に駆り立ててくれるというわけだ(なんでも、7月末には実写版も公開されるみたい)。 

 

ポイントは、「ぼくらとあいつら」の混線にある。あのピンク・フロイドも歌っていたではないか。こんなふうに。 

 

Us and them

And after all we're only ordinary men

Me and you

God only knows it's not what we would choose to do

 

ぼくらだって、あいつらだって

けっきょくのところみんな普通の人間なのさ

ぼくになったり、きみになったりは

神のみぞ知ること、ぼくらが選べるわけじゃないんだよ

 


Pink Floyd - Us and Them (with lyrics)

 

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