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雲の中の散歩のように

Cinema letteratura musica どこまで遠くにゆけるのだろう

《ファンキー・トマト》、イタリアからの新しい風

イタリア語

前回の「ブドウ畑の階級闘争」では、イタリアの農業における暗い側面を紹介したけれど、今回は明るい話題を伝える記事を紹介したい。

www.huffingtonpost.it

 このハフィントン・ポスト(イタリア)の記事なのだが、さっと訳してみたので、いったいどこが明るい話題なのか、読んで確認してみてほしい。

では日本語訳をどうぞ。

 

ファンキイ・トマト社:
消費者参加型でトマトの一貫性産を行うこの会社*1は、不法な搾取システムであるカポララートにノーを突きつけ、移民たちを雇用している

 

カポララート*2 に変わるシステムが存在する。そういえば、言葉だけではないかと思われるかもしれないが、プーリアとバジリカータの間に広がる半ヘクタールの土地では、すでに現実のものとなっている。可能性のある鍵を握っているのはファンキー・トマト社だ。トマト畑を耕し、収穫し、ビン詰めする、一貫生産の共同経営事業だ。出来高制で労働者を雇うのではなく、正式な契約を結ぶ。そして、じぶんっちの顧客から融資を受ける。同社のプロジェクトに賛同する人が、製品を事前に購入してくれるのだ。トマトソース、むきトマト、ダイストマトなど2万ボトルである。

 チームは起業の当初から、地に足のついた農業を行っている。パオロとジェルヴァスィオは農業が仕事だし、ジュリアは肉体労働者の健康状態を調査している。ミンモは社会学者、エンリコは学識ある農業技術者、ジョヴァンニはエンジニア、ママドウは文化仲介者*3 、ジョルダーノは広報を担当している。

 彼らが働くことに決めた地域もそうだが、南イタリアにおいて、トマトの一貫生産には何千人もの農業従事者と、何百もの加工工場が参加し、年間の生産量が150万から200万ユーロとなっている。郊外にあったバラックや廃屋は、何百人もの外国からの肉体労働者の家となり、彼らはカポララート(手配師による搾取)、出来高による賃金(300キロのトマトの箱にひとつにつき3.5ユーロ)、非合法契約という掟に縛られているのだ。

 「わたしたちの目的は、手配師による搾取のシステム(カポララート)に代わるシステムを作り出して、仕事を求めてわたしたちの国にやってくる移民たちを助けることにあります」。ハフィントン・ポストに、そう説明してくれたのはパオロ・ルッソ、プロジェクトを立ち上げたチームのメンバーのひとりだ。「ですから、わたしたちは彼らに、かなり高い労働日数を保証してやる必要がありました。(政府から)農業失業保険を得るための最低労働日数は52日です。わたしたちが提案したのは、この日数と正規の肉体労働の季節契約です。週に39時間、6時間40分に対して47ユーロとなりますね」

 こうした労働条件を基準にすることで、ファンキー・トマト社は4人の従業員を雇うことができた。セネガル人のママドゥ、ブルキナ共和国人のヤクーバとワリム、そしてイタリア人の非正規労働者で若い母親のアニータだ。「これがファンキーという形容詞の意味なのです。それはジャンルの異なる音楽が混じりあってできた音楽を表すものですね。同じことが移民にも言えます。彼らはわたしたちの文化と混じり合い、それを豊かにしてくれるのです。彼らは膨大なリソースであり、ただ通り過ぎてゆく人々ではないです」

 ママドウのストーリーは典型的だ。「わたしたちが知り合ったとき、彼はロサルノのアパートにいて、何時間もラディオ・ラディカーレ*4のラジオ放送を聞いていました」。そう語るのは彼の旅の仲間だ。ママドゥはセネガルで漁師をしていた。イタリアに着いたとき、彼はディスコで用心棒の仕事を始めたが、やがて失業、それでもカポララートに屈しようとはしなかった。「ぼくは自由人だからね」。その彼は今、プロジェクトの中心メンバーとなっている。

 ママドゥと同様に、移民労働者だったヤクーバとワリムのふたりもまた、不法労働を拒絶している。そんな労働をしてまみたものの、その後、彼らはファンキー・トマト社が人を探しているという話を耳にし、挑戦してみることにしたのだ。「わたしたちを選んだのは彼らなのです。わたしたちではありません」。そうルッソは語る。「それでもうれしいのは、彼らに工業的で集約的な生産形態とは違う生産モデルを知ってもらうことができ、また、農業が搾取だけで成り立っているのではなく、職人的な作業と、品質を大切にするものだということを理解してもらえたということなのです。ここではそんな能力を身につけることができます。ここで習得した仕事は、他の仕事をするときにも役立つはずです。わたしたちは、さらに S.P.R.A.R.(難民救済保護対策機構)*5とも協力を始めたいと考えています。移民のことを、単純な肉体労働力と考えてはなりません。そうではなく、彼らを助け、専門的な能力を持った技術者になれるようにすることが必要なのです」

 もちろん、この仕事は多くの苦労がともなう。小さくて、職人的で、有機の商品を生産する企業が、市場で生き残るのは簡単なことではないのだ。最終的な商品が1キロ 1.70ユーロというのは、工業製品に比べると値段が高いが、それでも、同じような理念で運営している他の企業のものと比べると安価だ。彼らの製品の購入者は、おもに、レストラン関係者(彼らのほうでも、小規模な流通を行ってくれます)であったり、搾取のない商品に関心を持つ卸売業社であったり、小さな商店であったり、個人であったりする。「こうした人々は、なにか価値のある経済 un’economia virtuosa のために役に立ちたいと考えています」。そうルッソは説明する。「長く存続し、地域に連続性を生み出せるようななにかを、創造したいと考えているのです。それにわたしたちは、なんとか成功しつつあります。すばらしい仲間にめぐまれたからです。ですから今は、この仕事を継続しながら大きくしてゆき、できればオリーブ製品にも同じようなプロジェクトを展開させられたらよいと考えています。ともかく、来年の春にはふたたびトマトから再スタートですね」 

 

このハフィントンポスト(イタリア)の記事は、ぼくにはとても新鮮で、将来への可能性のようなものを伝える話題に思えたのだ。

ちょっと調べてみると、ファンキー・トマト社のような生産形態に似たものとして、アメリカに CSA(Community Supported Agreculture「地域支援型農業」)というものがあるらしい。これは、消費者が地域の農家と直接契約し、代金を前払いして農産物を購入するシステムだというから、まさにファンキー・トマト社の「消費者参加型の一貫生産 filiera partecipata 」と重なるところがある。そこでは、消費者が前払いによる購入をすることで、不作のリスクが分散され、農家は一定の収入とともに販売先を確保できるというわけだ。

 しかし、ファンキー・トマト社がやろうとしていることはそれだけではない。 ご存知のように、 イタリアのトマトソースの生産量は世界的にも高く、アメリカに次いで2位。しかし、そのイタリアでのトマトの収穫には、多くの移民労働者や外国からの季節労働者非正規労働者として駆り出され、その背後では、カポラーレと呼ばれる手配師による搾取が横行していた。けれども、そんな状況に逆らい、新風を吹き込もうとする人々が、この「ファンキー・トマト」という新しい生産形態を立ち上げたのだ。つまり、新しい農業システムの強みに、搾取のない製品という倫理的な価値を付与したというわけだ。

 この正しいことをしたいという強い思いとともに、さらにもうひとつ強調しておきたいのは、ファンキー・トマト社のセンスのよさだ。もちろん、トマトソースを生産する会社だから、トマト農家が中心になるのだが、参加しているのは農家だけではない。芸術家、音楽家、農業技術者や、文化コーディネーターなど、多様な人々が自分の個性を生かして、経営に関わっている点は、今一度、強調しておいてもよいだろう。

 それはどこか、今日本で学生たちが立ち上げた SEALDs のセンスのよさに通じている。ファンキー・トマトにもまた、言葉、ヴィジュアル、そして当然のように音楽的な若々しさが感じられるのだ。

ファンキー・トマトのサイトには、たとえばこんなビデオが紹介されている。

www.youtube.com

 パッと見て目を引く映像ではないかもしれない。バックに流れる音楽も、洗練されたものではないかもしれない。しかし、ここには手作りながらの味がある。その背後には、自分たちのことを伝えようとする思いが感じられる。だからこそ、素朴さのなかに伝わってくるものがある。

関心のある方は、彼らのサイトを覗いてみてほしい。イタリア語のサイトだけど、なかなかいかした作り方をしている。少なくともぼくは、そう思う。 

www.funkytomato.it

 

*1:l'azienda di pomodori a filiera partecipata: "filiera" は、瓶詰めトマトソースなどを、原料を育てるところから始め、収穫から製品への加工などを一貫して行うシステムのこと。"partecipata" は「部分的な子会社」という意味だが、ここで資本金を出資している親会社がいるという意味ではなく、消費者から直接に出資を集い、消費者の参加 partecipazione によって経営する会社という意味なのだろう

*2:caporalato: 「手配師 caporale 」と呼ばれる斡旋業者が高額の手数料を取って不法労働者を安く斡旋するシステムのこと

*3:mediatore culturale: 文化的な仲介者の意味だが、2ヶ国語が話せる代理人として、母語しか話せない者同士を仲介し、言語の異なる2つのコミュニティーの構成員が、相互にコニュニケーションがとれるように計らう仕事のこと

*4:RADIO RADICALE: イタリア急進党によるラジオ放送局のこと

*5:Il Sistema di protezione per richiedenti asilo e rifugiati (SPRAR): http://www.sprar.it